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2022.07.14

猫のフィラリア症とは?室内なら安心って本当?獣医師さんに聞いてみました[#獣医師コラム]

猫のフィラリア症とは?室内なら安心って本当?獣医師さんに聞いてみました[#獣医師コラム]

フィラリア症という病気について「聞いたことがある」という方は多いと思います。動物病院などでは、フィラリアの予防薬のチラシやポスターを見かけることも多いですよね。
でも、実際のところ、このフィラリア症とはどんな病気なのでしょうか?
過去に犬と一緒に暮らしていた経験がある方や、現在猫だけではなく犬とも一緒に暮らしている方にとっては、フィラリアはなじみ深い病気の一つかもしれません。犬のフィラリア症と猫のフィラリア症ではどのような違いがあるのかについても、tamaの獣医師さんに質問してみました。

DOG's TALK

tamaの獣医さん 菱沼獣医師

tamaの獣医さん 菱沼獣医師

獣医学部を卒業後、動物病院での臨床・栄養指導を経験した後に公的機関で獣医師として勤務。現在はtamaのアドバイザー、商品開発などに携わる。中型犬、小型犬と一緒に暮らしていますが、猫のことも大好きです。

そもそも、フィラリア症ってどんな病気なの?

フィラリア症は、蚊を媒介して感染する寄生虫による病気です。別名では犬糸状虫症と呼ばれる通り、もともとは犬での感染が多い病気でした。
しかし、フィラリア(犬糸状虫)は猫にもに寄生し、悪さをすることが分かり、その予防の重要性が注目されるようになってきました。

蚊が猫や犬の皮膚を刺すと、その際にフィラリアの幼虫が血管を通って侵入し、体内で成長していきます。
犬の場合は、フィラリア(犬糸状虫)の成虫は主に肺動脈や心臓に寄生するため、血液循環障害を起こし、さまざまな症状を表します。

猫と犬のフィラリア症の違い

犬のフィラリア症では、主に寄生したフィラリアが心臓や動脈といった血管内で成長し、循環器系や肝臓肥大、腹水、浮腫などのトラブルを引き起こします。
犬では蚊が活発に活動する期間はさまざまな形でフィラリア予防を行うことが一般的ですが、主に蚊に刺されて体内に入り込んだフィラリア幼虫が成虫になってしまう前に退治して、体外に排出することを目的としています。
成虫になる前に駆虫することができれば大きな問題にはなりにくい(一概には言えませんが)ということですね。

蚊を媒介して猫の体内に入ったフィラリア幼虫は、血管を通って体内を移動しながら成長し、肺動脈に到達するまでにほとんどが死んでしまいます。
このタイミングで死亡した幼虫の死骸に対して免疫反応が引き起こされ、炎症が起こることで最初のフィラリア症の症状が出ます。この時、猫にみられる症状は咳き込んだり、呼吸が苦しそうになるなど喘息に近いと言われます。
生き残ったフィラリアが成虫となると、一度呼吸器系の症状は軽くなりますが、その後に成虫が寿命(約3年以内)によって死亡した際に、再びフィラリアの成虫の死骸が血栓を作り、フィラリア症の症状がみられます。
幼虫よりも大きな成虫が死亡した時には、血管をふさいでしまう「血栓症」を引き起こし、これによって猫の突然死のリスクがあると言われており、注意が必要です。また、回復したとしても、呼吸器系の機能が著しく低下し、それが慢性化することもあります。

猫のフィラリア症は少ないって本当?

フィラリアは、犬糸状虫という名前がついている通り、本来は犬に寄生するはずの寄生虫です。そのため、フィラリアにとっては猫の体は居心地が良いものではないようで、猫の体内でフィラリアが成虫まで成長しきることはほとんどありません。

また、「猫は犬と違って完全室内飼いだから、フィラリア症のリスクは少ない」という意見を聞いたことがある方は多いのではないでしょうか。
毎日のように散歩に行く犬と、ほとんど室内で過ごす猫では蚊に刺されるリスクには違いがあります。

しかし、地域にフィラリアに感染している犬が多ければ、フィラリア幼虫を持っている蚊も多くなり、一回蚊に刺されただけだとしてもフィラリアに寄生されてしまう可能性は高くなります。

少し前のデータ(2008年)になってしまいますが、首都圏の動物病院の調査では、猫の10頭に1頭以上がフィラリアの感染歴があるとするデータも出ています。さらに、そのうち1/3~4が、完全室内飼いの猫だったともいわれています。
これが元野良猫や、保護猫ならより感染率は高くなっている可能性があります。
呼吸器系疾患が見られる猫や突然死してしまった猫に一定の割合でフィラリア症の感染が見られるのは事実です。これまで、あまり猫のフィラリア症自体に注目がされてこなかったことや、検査の精度が低く、件数自体が少なかったこともあり、実態が見えにくい病気でもあります。

場合によっては重篤な病気につながるリスクを持っていること、そしてこれらのデータを照らし合わせると、猫のフィラリア症は少ない、と楽観視することはできないのが実情なのかもしれません。

猫のフィラリア症の予防と対策について

実は、猫のフィラリア症は、感染しているかどうかを調べる検査の精度が低く、治療法も確立されてない病気でもあります。ですから、なるべくかからないようにすることが重要です。

猫のフィラリア症が心配という方は、かかりつけの動物病院で、地域の犬やほかの猫のフィラリアの発症率を質問しながら、予防薬を取り入れるかどうかを相談してみるのが良いと思います。フィラリアの感染率には地域差がありますので、「必要/必要ない」の判断は地域の獣医師さんに相談するのが一番正確です。

予防を行う場合は、獣医師の指導に従い、月に一度体に入ってしまったフィラリアの幼虫を駆虫するための投薬が必要になりますが、予防策としては効果的です。生きている幼虫を体から追い出すことで、血栓を作るリスクを抑えることができます。(猫のフィラリア症の予防はフィラリアの死骸による血栓の予防ともいえます)フィラリアを媒介する蚊は、地域によって微妙に活動期間の差がありますので、かならず獣医師の指導に従って投薬を行う場合は、家族の判断で投薬をやめるなどはしないようにしてくださいね。

おわりに

暑い夏の時期に増え、虫刺されを残す蚊ですが、猫にとっても厄介な病気を運ぶ存在でもあります。
蚊によって媒介されるフィラリアは、近年では猫でも予防の重要性が注目されるようになり、「投薬したほうが良いの?」と迷われる方も多くなりました。
地域によってフィラリアの感染状況などは異なりますので、フィラリアの情報が気になった方は、信頼できる動物病院で獣医師さんと相談しながら、対策をするのかどうかを検討してみてくださいね。