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2026.02.19

【猫の医療最前線】高齢猫に増えるリンパ腫|症状に気づくポイントと治療の考え方[#獣医師監修]

【猫の医療最前線】高齢猫に増えるリンパ腫|症状に気づくポイントと治療の考え方[#獣医師監修]

■猫の医療最前線シリーズ

猫の高齢化が進むなか、これまで「年を取ったら仕方がない」と考えられてきた病気の構図が、大きく変わり始めています。近年では、長年猫の死因の上位を占めてきた慢性腎臓病に対して、新しい治療の可能性が現実味を帯びてきました。こうした新しい治療はまだ一般に使われている段階ではありませんが、健康に対する意識の高まりやキャットフードの品質向上、早期受診の普及などにより、猫の寿命は少しずつ延びてきています。
その結果、これまで寿命の陰に隠れていた病気が、高齢期に目立つようになってきました。
そのひとつがリンパ腫です。リンパ腫は猫に多いがんでありながら、血液検査だけでは発見に至らないことが多い病気でもあります。食欲があり、数値も大きく崩れていない。それでも体の中では、静かに進行している。高齢猫のリンパ腫は、まさにそんな特徴をもっています。

この記事では、高齢猫にリンパ腫が増えている背景、気づきにくい症状のポイント、そして治療をどう考えるべきかについて整理していきます。

CAT's TALK

獣医師 菱沼 篤子

【獣医師】菱沼 篤子

獣医学部を卒業後、動物病院での臨床・栄養指導を経験した後に公的機関で獣医師として勤務。現在はtamaのアドバイザー、商品開発などに携わる。中型犬、小型犬と一緒に暮らしていますが、猫のことも大好きです

高齢猫にリンパ腫が増えている理由

リンパ腫自体は、決して新しい病気ではありません。しかし近年、「高齢猫のリンパ腫」が増えているように感じられる背景には、猫の寿命の延びがあります。
これまで多くの猫は、腎臓病を中心とした慢性疾患によって、リンパ腫が発症・進行する年齢に到達する前に命を落としていました。しかし腎臓病の管理や治療が進歩し、さらに新しい治療薬の実用化が進めば、猫はこれまで以上に長く生きられるようになると考えられます。

すると、これまで寿命のかげに隠れていた病気が、少しずつ表に出てくるようになります。リンパ腫はその代表例です。
リンパ腫は、年を重ねることで起こりやすくなる「年齢依存性の病気」という側面が強く、高齢であること自体が大きなリスク要因になります。特別な原因や、何か悪いことをした結果ではなく、長く生きることで体に積み重なっていく変化が、ある時「病気」という形で現れるのです。

たとえるなら、長く住んだ家に少しずつ不具合が出てくるのと似ています。新築の家では起きなくても、年数を重ねるうちに、目に見えない小さな変化が積み重なり、やがて修理が必要になる──体も同じように、長い時間をかけて変化していきます。

そのため、リンパ腫が急に増えたというよりも、腎臓病の治療が進み、猫がリンパ腫が表に出る年齢まで生きられるようになった結果、「見えるようになった病気」だと考えるほうが現実に近いでしょう。これは決して悪い変化ではなく、猫の医療が前に進んできた証ともいえます。

高齢猫のリンパ腫とはどんな病気か

リンパ腫は、リンパ球という免疫細胞が腫瘍化する病気で、「血液のがん」に分類されます。血液のがんというと、血液検査で異常が出るイメージを持たれがちですが、多くのリンパ腫では血液検査に明確な判断がつきません
特に高齢猫に多い消化管リンパ腫では、腫瘍は腸の壁やリンパ組織に存在し、血液中にがん細胞が現れないケースがほとんどです。そのため、定期的な血液検査を受けていても、リンパ腫の早期発見につながらないことがあります
また高齢猫では、進行が比較的ゆっくりな低悪性度リンパ腫が多く見られます。症状が緩やかなぶん、発見が遅れやすいという側面もあります。

■リンパ腫とガンの違い

リンパ腫は、皮膚や臓器にできる「かたまりのがん」とは違い、リンパ球という血液・免疫の細胞そのものが病気になるがんです。
リンパ球は、

・血液
・リンパ管
・臓器

を通って全身を巡る細胞です。
そのため、どこか一部を切除しても、体のどこかに、目に見えない病変が残りやすい、という特徴があります。
手術で取り切る、という考え方をしにくいのが、リンパ腫の難しさです。

症状に気づくための重要なポイント

高齢猫に多い消化官型のリンパ腫で最も難しいのは、「症状が老化と区別しにくい」ことです。

例えば、

・少しずつ痩せてきた
・食べる量が日によって違う
・動く時間が減った
・便がゆるくなりがち

これらはすべて、「年のせい」と受け取られやすい変化です。しかしリンパ腫では、こうした小さな変化が長く続くことが特徴です。

特に重要なのは、

・食欲はあるのに体重が減る
・血液検査は大きく異常がないのに調子が戻らない
といったケースです。これはリンパ腫を含む消化管疾患の典型的なパターンで、注意が必要です。

「元気がない」「食べない」といった分かりやすい症状が出る頃には、病気はある程度進行していることが多いため、違和感の段階で立ち止まれるかどうかが重要になります。

高齢猫のリンパ腫治療の考え方

リンパ腫の治療と聞くと、抗がん剤治療に対して強い不安を感じる方も少なくありません。しかし猫のリンパ腫治療は、人の抗がん剤治療とは目的や考え方が異なります。リンパ腫は全身に関わる病気であり、完全に治しきることが難しいケースが多いため、治療は病気を抑えながら生活の質を保つこと(寛解)を目標に行われることが一般的です。
特に低悪性度リンパ腫では、内服薬を中心とした比較的負担の少ない治療によって、症状を安定させながら長い時間を過ごせる猫もいます。
一方で、高齢であることや持病の有無、性格、通院や投薬に対する負担の感じ方によっては、積極的な治療が必ずしも合わない場合もあります。治療を行わない、あるいは症状を和らげることを中心に向き合うという選択が取られることもあり、それ自体が間違いというわけではありません。
診断後の向き合い方に、ひとつの正解があるわけではありません。「どこまで治療を行うか」という点だけでなく、その猫と家族がどんな時間を大切にしたいのかを考えながら、選択していくことになります。

まとめ:高齢猫のリンパ腫と向き合うために

腎臓病の治療が現実になりつつある今、猫の高齢期は新しいステージに入りました。リンパ腫はそのなかで、これからさらに向き合う機会が増える病気です。

血液検査で分からないことが多く、老化と見分けがつきにくいリンパ腫だからこそ、日々の小さな変化を見逃さない視点が重要になります。そして診断後は、「治す」か「治さない」かではなく、どう生きるかを考えることが、飼い主に求められます。

リンパ腫は決して、即座に希望を失う病気ではありません。高齢猫とともに歩む時間を、少しでも穏やかに保つための選択肢は、確実に増えています。