• コラム
  • 猫研究所

2026.01.22

ネコ科の「AIM」はなぜ「IgM」にがっちり結合しているのか?進化が仕掛けた謎[#猫研究所]

ネコ科の「AIM」はなぜ「IgM」にがっちり結合しているのか?進化が仕掛けた謎[#猫研究所]

猫がかかりやすい病気としてよく知られている腎臓病。
その治療を大きく前に進めるかもしれないカギの存在が「AIM」というタンパク質です。AIMはもともと、腎臓の中でたまった老廃物を「掃除してね」と知らせてくれる、お片づけのサインのような役割をしています。
ところが猫では、このAIMが免疫の仲間であるIgMにぎゅっとくっついたまま離れにくく、いざというときに働きにくい特徴があります。2026年は、この「離れないAIM」のしくみに光を当てた新薬がいよいよ登場か、というニュースがうれしい話題となっています。
ところで、どうして猫のAIMは他の動物と異なる動きをするのでしょう。猫のAIMにはどんな秘密があるのか?その進化の背景を探ることで、猫たちの未来につながる治療の可能性も見えてくるかもしれません。
ということで、猫のAIMにはどんな秘密があるのか、スタッフ猫が調査しました。

■関連記事猫の腎臓病新薬「AIM薬」ついに年内実用化へ[#獣医師監修]

AIM(Apoptosis Inhibitor of Macrophage)は、体の中で死んだ細胞や老廃物(デブリ)を見つけ、体内のお掃除担当の免疫細胞「マクロファージ」に片付けて、と知らせるタンパク質です。
腎臓の尿細管がデブリで詰まりそうになると、AIMがそれに付着し、マクロファージを呼び寄せて掃除を促す。本来は腎臓の回復を助ける役割を担っています。
しかし、ライオンなどを含むネコ科動物は、AIMが「IgM」という免疫タンパク質に非常に強く結合してしまい、必要な場面でも離れにくいという特徴を持っています。
これが猫が腎臓病に弱い理由の1つとされています。

CAT's TALK

ゴロー

ゴロー

AIMって、腎臓の掃除を手伝うスーパーマークなんでありますよね?

ランラン先生

ランラン先生

そうです。問題は、猫ではそのスーパーマークが「IgM」に貼りついたまま離れないことです。

ムー

ムー

え〜、働きたいのに働けないのね。

AIMは「腎臓の掃除を助ける大事なタンパク質」なのに、なぜか猫ではその働きがうまく発揮されません。
AIMがIgMという免疫タンパク質に強く結びつきすぎてしまい、必要なときに離れてくれないからです。でも、この離れない仕様は、ただの不具合ではなく、猫という生き物がたどってきた進化の中で形づくられた可能性があります。
では、なぜそんな仕組みが生まれたのか?
そこには、炎症から身を守るためのブレーキ肉食への適応で起きた副作用、そして 野生の寿命ゆえに淘汰されなかった特徴――そんな3つの進化の物語が見えてきます。
猫のAIMが働きたくても働けない理由は、まだわかっていません。
そこで、AIM研究の知見と猫科の生物学から考えられる3つの仮説を深掘りしてみました。

①炎症の暴走を防ぐ「安全ブレーキ」説

AIMは、掃除開始の強いシグナル。もしこれが必要のない場面で勝手に働いたら

・無駄な炎症
・組織ダメージ
・慢性炎症リスク

など、生体にとっては逆効果にもなり得ます。

本来、完全な肉食であるネコ科の動物は、狩りによる外傷や外敵との接触が多い動物。免疫反応の暴走は命取りになる場面が多かったはずです。そのため進化が「AIMをIgMでしっかり縛っておく=滅多に炎症を発動させない」という安全策を選んだ可能性が考えられます。

■ここでのメリット:過剰な炎症反応によるダメージを避けられる。

CAT's TALK

ゴロー

ゴロー

AIMって働きすぎると逆に危ないのでありますか?

ランラン先生

ランラン先生

そうなんです。掃除をしすぎて炎症が起きることもあります。

ナナ

ナナ

じゃあ、しっかり縛っておくのも意味あるってこと?

ランラン先生

ランラン先生

働きすぎ注意のためのブレーキだったのかもしれませんね。

ムー

ムー

でもブレーキが強すぎて発車しなくなった説ねー。

②肉食動物への適応が生んだ「副次的進化」説

猫は肉を中心に食べて生きるため、脂肪の処理や免疫の働きが猫ならではの形に進化してきました。その過程でAIMの構造も変化し、本来の役割とは異なる部分でIgMに結合しやすくなるという、思わぬ副産物が生まれた可能性があります。研究では、この「猫AIMの構造的な違い」がIgMへの強い結合の理由だと示されています。さらに、AIMが脂質代謝や炎症調整にも関わることを踏まえると、こうした肉食への適応に伴う変化は自然な流れだと考えられています。

■ここでのメリット:肉食に最適化された体の設計図を優先し、その中の付随変化としてAIMが強結合化した。

CAT's TALK

ムー

ムー

ふーん。肉食に関係してAIMが変わったって説もあるんだ。

ランラン先生

ランラン先生

進化というのは、別の目的で変化した結果、思わぬ部分も変わることがありますからね。

ナナ

ナナ

あたちたち猫って奥深いのね。

③高齢期の問題だから淘汰されなかった「中立進化」仮説

自然界での猫の寿命は短く、野良猫の寿命は3~5年程度といわれています。一方で、腎臓病が表れやすいのは人間と暮らす10歳以上の高齢期
つまり、AIMが離れない仕様でも、野生では繁殖に影響せず淘汰されなかっため、そのまま特徴が固定された可能性が高い、という説です。

■ここでのメリット:メリットというより、不利だけど排除されなかったという進化の残り物。

ある意味これが最も現実的な説明と考える研究者も多いようです。

CAT's TALK

ゴロー

ゴロー

ボクちんのAIM問題って、年をとってから出るんでありますよね?

ランラン先生

ランラン先生

そうですね。野生では高齢になる前に寿命が尽きることが多いのです。

クリ

クリ

じゃあ進化的には放置された問題ってこと?

ムー

ムー

なるほど〜。なんか切ないけど納得!

ネコ科AIMがIgMに強く結合してしまう理由としては、
①炎症の暴走を防ぐ安全ブレーキ、②肉食への適応の副作用、③高齢期に問題が出ても自然界では淘汰されなかったという中立進化。そんな複数の可能性が考えられています。
猫の体は、もともと厳しい環境で生き抜くために設計されていて、免疫もむやみに暴れないようにブレーキが強く作られています。しかし、その慎重さが、長生きできるようになった現代では思わぬ弱点になってしまうこともあります。
強いのに弱い。弱いのにたくましい。そのアンバランスさも、猫という生き物の魅力なのかもしれません。
猫ともっと一緒に。その願いが叶うようなAIM新薬は、本当にうれしいニュースです。