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2026.01.15

猫の腎臓病新薬「AIM薬」ついに年内実用化へ[#獣医師監修]

猫の腎臓病新薬「AIM薬」ついに年内実用化へ[#獣医師監修]

■25年以上の研究が結実し、猫の医療が大きく転換する歴史的瞬間

猫と暮らす家庭にとって最も大きな不安のひとつが「慢性腎臓病」。その治療に、これまでとはまったく異なる、根本治療薬「AIM新薬」が登場しようとしています。
AIM医学研究所による治験はすでに終了。
2026年4月に農林水産省へ承認申請予定で、順調に進めば2026年内の実用化が視野に入っていると報じられています。
慢性腎臓病は、15歳以上の猫80%以上が罹患している病気で、15歳では29.2%が腎臓病で亡くなるというデータもあります。
長く「宿命」とされてきた病気に、ついに治療の光が差そうとしています。

CAT's TALK

獣医師 菱沼 篤子

【獣医師】菱沼 篤子

獣医学部を卒業後、動物病院での臨床・栄養指導を経験した後に公的機関で獣医師として勤務。現在はtamaのアドバイザー、商品開発などに携わる。中型犬、小型犬と一緒に暮らしていますが、猫のことも大好きです

猫の腎臓病とは

慢性腎臓病(CKD)は腎機能が徐々に低下する進行性の病気。
高齢猫ほど発症率が高く、15歳で死因1位(29.2%)という統計は、猫が特に腎臓病に脆弱であることを示しています。腎臓は一度損傷すると元に戻らないため、従来の治療は以下のような対症療法が中心でした。

・点滴(補液)
・療法食
・投薬による進行抑制

つまり、これまでの猫の腎臓病治療は、進行を食い止めるための「対症療法」しかなく、腎臓そのものを元に戻す治療は存在しませんでした。 AIM新薬も完治を約束するものではありませんが、従来の治療では届かなかった「病気の根本プロセス」に初めてアプローチできる点で、大きな一歩といえます。

なぜ猫は腎臓病になりやすいのか ― AIM研究が解明した「構造的弱点」

1999年に宮﨑徹博士によって発見されたタンパク質、AIM(Apoptosis Inhibitor of Macrophage)。
宮﨑徹博士は研究を進める中で、2016年に「猫のAIMはうまく働かない」という決定的な事実を突き止めました。

■AIMの役割

・老廃物(ゴミ)に結合して“掃除の合図”をつける
・マクロファージがゴミを処理し、腎臓の炎症や詰まりを防ぐ

■猫だけAIMが働かない理由

猫のAIMは血中免疫グロブリンMというタンパク質と強く結合しすぎてしまい、本来の「目印」機能を発動できないことが判明しました。

その結果、

・腎臓に老廃物が蓄積
・マクロファージが掃除に来ない
・慢性炎症 → 腎不全へ

という悪循環が進行します。
この根本原因の発見が、AIM新薬開発の出発点でした。

AIM新薬とは ― 世界初の「根本治療」に挑む薬

従来は「進行を遅らせる」治療しかありませんでしたが、AIM新薬は病気の原因そのもの=老廃物の蓄積にアプローチする初めての薬です。

●作用の仕組み

・正常機能するAIMを外から投与
・老廃物に目印を付けて排除を促す
・腎臓の詰まりや炎症を改善し機能回復を支援

治験では、ステージ3b(IRISステージ3の中でも重症より)の猫において腎臓病の進行を抑制し、360日生存率が大幅に改善したことが報告されています。

■AIM新薬が「注射」で投与される理由

AIM新薬は、飲み薬ではなく注射で投与されます。これはAIMという物質の性質に基づいた明確な理由があります。

1.AIMはタンパク質で、飲むと分解されてしまう

AIMはアミノ酸からなるタンパク質のため、飲み薬として摂取すると胃腸で分解され、有効成分として体に届きません。
開発者の宮﨑徹氏も、「AIMはタンパク質なので、経口投与では胃腸で分解されてしまう」
と明言しています。

2.AIMは「血液中で働く薬」である

AIMは血中で老廃物と結合して目印をつけることで作用を発揮するため、血液中に直接届ける必要があります。これが静脈注射が選ばれているもう一つの理由です。

3.実は負担は少ない

AIMは体内で長く作用するため、治験では2週間おきに数回投与するだけで効果が確認されています。頻繁に打つ必要がなく、猫にとっても負担が小さい治療です。

■AIM新薬の実用化スケジュール

最新情報では以下の通り。

・治験完了
・2026年3月:安定性試験終了見込み
・2026年4月:農林水産省へ承認申請
・順調なら年内に実用化の可能性

25年続けられた研究が、ついに一般の猫へ届く段階へ入りました。

新薬を待つ間にできる「最善の準備」

AIM新薬の効果を最大限に生かすためにも、以下はこれまで通り重要です。

・定期的な血液・尿検査
・飲水しやすい環境づくり
・体重・排泄のチェック
・フード管理

これらは新薬登場後の治療効果を引き出す土台にもなります。
AIM新薬は病気の根本に働きかける薬ですが、魔法の薬ではなく、猫の体が「回復できる環境」にあるほど力を発揮しやすいのです。研究ではステージ3で「進行停止」や「全身改善」が報告されていますが、腎臓そのものを再生し、腎臓病を完治に導く薬ではありません。
AIM新薬は、腎臓の状態がより良い段階で使うほど結果が出やすいでしょう。そのため、引き続き、現在行っているような腎臓に対する配慮は引き続き、大事なケアとなります。

まとめ ― 「治らない病気」から「治療できる未来」へ

AIM新薬は、

・猫だけAIMが働かないという弱点を解明し
・その根本原因にアプローチし
・腎臓病治療を根本から変える可能性を示した

まさに画期的な治療薬です。

2026年、猫の腎臓病治療は新時代へ。
長年「治らない」とされてきた病気が「治療できるかもしれない病気」へ変わろうとしています。