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2025.10.30

猫と人間の違い【寿命編】どうしてこんなに差があるの?長寿へのヒント[#猫研究所]

猫と人間の違い【寿命編】どうしてこんなに差があるの?長寿へのヒント[#猫研究所]

■人間と猫の違いシリーズ:vol.4(寿命編)

猫を見つめていて「もう私より年上なんだ」と気づく瞬間、不思議な気持ちになることはありませんか?
猫は人間よりも急速に成長し、短い寿命を持つ生き物です。人間の寿命は80歳以上(日本人)なのに対して、猫はその半分にも満たない年数で寿命を迎えてしまいます。こんなにかわいいのに、猫はどうして私たちと同じくらい長生きできないのでしょうか。
この記事では、猫の成長スピードや寿命のしくみ、そして長寿の可能性について、猫研究所のスタッフ猫たちと一緒に探っていきます。

猫は生後1年で人間の18歳に相当するほど成長します。
その後も1年ごとに人間の約4歳分の年齢を重ねていくとされており、これは進化の過程で「早く育ち、早く命をつなぐ」戦略を選んできたためだと考えられます。

■早く成長するために進化した猫
■人間との環境の違い

では、猫はどうして人間よりも早く成長して、早く老いるようになったのでしょうか。理由についてはこう考えられています。

• 野生環境では命の危険が多い
猫はもともと野生で暮らしていた動物で、外敵や病気、事故などによるリスクが高い環境にいました。そうした状況では、できるだけ早く成長して繁殖できることが種の存続に有利になります。

• 短いサイクルで命をつなぐ繁殖戦略
猫は生後半年〜1年で繁殖可能になり、1度に3~6匹と複数の子を産みます。これは「数で命をつなぐ」戦略で、短期間で次世代を残すことが前提の設計です。
一方、人間は複雑な言語を使いこなし、社会的なルールや文化を理解・継承する能力を持っています。これらの能力は短期間では習得できず、長期的な学習と経験の蓄積が不可欠です。したがって、長寿であることは、知識の獲得と社会的適応において有利に働く設計であり、人間の進化において重要な要素となっています。

DOG's TALK

ランラン先生

ランラン先生

猫は「早く育って、早く命をつなぐ」ように進化してきたのです。人間とは生きる目的が違うのです。

■代謝と細胞の寿命の違い

また、代謝や細胞の入れ替わりも人間より早いため、人間とは体の時間の流れが異なります。
一般的に、動物は体が小さいほど体温を維持するために多くのエネルギーを使う必要があります。猫は人間よりも体表面積が相対的に大きく、熱が逃げやすいため、エネルギーを頻繁に使って体温を保つ必要があります。

DOG's TALK

ゴロー

ゴロー

大きい体の方が、体温を維持するためにエネルギーを必要とするかと思っていたのでありますが、違うのでありますか?
大きいお部屋の方が、暖房で温まるまでにエネルギーが必要になるでありますよ?

ランラン先生

ランラン先生

ゴローくんにしては鋭い質問ですね。では、わかりやすく説明しましょう。

動物の体を単純化して「球体」と仮定した場合の、表面積と体積の割合を表にしました(表面積と体積の比率:猫と人間の比較表)。 表の一番右の「表面積/体積比」を比較すると、体が小さいほど体積に対する表面積の割合が大きくなることがわかります。表面積の割合が大きいほど、熱が逃げやすくなる=代謝が速くなるという仕組みにつながります。

■表面積と体積の比率:猫と人間の比較表

表面積 (cm²)体積 (cm³)体積に対しての表面積の割合
猫(半径 約10cm)の場合 1,256.6cm² 4,188.8cm³ 約30%
人間(半径 約20cm)の場合 5,026.5cm² 33,510.3cm³ 約15%

猫は人間よりも体温を維持するために必要とする基礎代謝が高く、細胞の分裂・再生が速い生き物。代謝が速いと細胞の入れ替わりも活発になりますが、その分、細胞の寿命に早く到達してしまうという側面があります。

また、心拍の速さは「寿命の時計」の進み方に影響すると考えられています。猫の心拍数は1分間に120~140回、呼吸数は20~30回程度。人間は心拍数が60~80回、呼吸数は12~20回ほどです。心拍数が多いほど、代謝が速い=細胞の活動が活発。細胞の活動が多いほど、DNAの損傷が蓄積しやすいと考えられています。
例えば、ハツカネズミは代謝が非常に早く、寿命が2~3年。一方、ゾウやクジラのような大型哺乳類は代謝が遅く、寿命も50~100年と長い傾向があります。

※ただし、運動で心拍数が一時的に上がることは、寿命のマイナスにはつながらないと考えられています。
※犬はこの一般則から外れていて、小型犬の方が大型犬よりも平均寿命が長いという現象が見られます、これは「犬種ごとの遺伝的背景」が寿命に強く影響していると考えられています。

DOG's TALK

ランラン先生

ランラン先生

ちなみに猫は、同じ小型の生き物の中でも比較的、長寿の傾向にあります。

ゴロー

ゴロー

それはうれしいでありますね。でも、どうしてでありますか?

ナナ

ナナ

あたちが教えてあげる。それは、抱っこをしてもらうとしあわせが積み重なるから。しあわせの数ほど長生きするの。

ランラン先生

ランラン先生

惜しいですね。正しくは遺伝的疾患が少なく、品種改良の影響が比較的少ないことが理由のひとつ、と考えられています。
しあわせの数ほど長生きする説も、間違ってはないと思います。

人間と猫では、病気に対する耐性にもちがいがあります。例えば、人間は、がん細胞の増殖を抑える遺伝子など、老化を抑える遺伝子を持っています。猫は腎臓病やがんなどの疾患が比較的早期に進行することが多く、治療の難しさもあります。特に高齢猫では、慢性腎臓病や甲状腺機能亢進症などが寿命を縮める要因となっています。

DOG's TALK

ランラン先生

ランラン先生

猫の腎臓病はとても多いですが、早期発見が病気の進行を遅らせることにつながります。

ムー

ムー

病院は嫌いだけど、頑張って定期的な健康診断をちゃんと受けなきゃね。

猫の代謝が速いことは生物的な宿命であり、これ自体を変えることはできません。
しかし、病気による早期死は予防・治療できる時代に近づいています。病気の発症を遅らせることができれば、猫の寿命はもっと延びるのではないでしょうか。近年、猫の寿命が延びるような様々な研究が進められています。

■最新研究①:AIMタンパク質と猫の寿命延長の可能性

猫の腎臓病に関するAIMというタンパク質の研究が進められています。猫はこのAIMがうまく働かず、腎臓に老廃物が溜まりやすい体質。しかし、体内で活動することのできるAIMを体内に注入することで、腎臓病の予防や改善が期待できるとされています。

DOG's TALK

ランラン先生

ランラン先生

腎臓は猫の最大のウィークポイント。だからこれらの研究は本当に希望ですね。

ゴロー

ゴロー

ボクちん、AIMで長生きしてもっともっと遊ぶであります!

■最新研究②:老化を遅らせる食事の工夫

最新の研究では、抗酸化物質・必須脂肪酸・プレバイオティクスを含む栄養素のブレンドが猫の健康寿命を延ばす効果があると報告されています。

☑老化を遅らせる栄養素のポイント
・抗酸化物質(ビタミンE・Cなど):細胞の酸化ストレスを軽減
・オメガ3脂肪酸(EPA・DHA):腎臓や関節、皮膚の健康をサポート
・プレバイオティクス:腸内環境を整え、免疫力の維持に寄与する
・良質なタンパク質:筋肉量の維持に不可欠(ただし腎臓病の猫には注意)

また、健康なうちから、腎臓の健康に影響を与えるミネラル《リン》の値に配慮することが、腎臓のダメージリスクを軽減します。

猫の成長や老化が早いと聞くと、悲しい気持ちになるかもしれません。でも、だからこそ、猫と過ごす時間はよりかけがえのないもの。
・定期的な健康チェックを行う
・シニア期に合わせた食事や環境を整える
・スキンシップや遊びを通じてストレスケアをする

など、毎日のできるケアを引き続き心掛けましょう。

DOG's TALK

ナナ

ナナ

老化は避けられないけど、向き合い方であたちの人生は変わるのよ。たくさん抱っこしてもらうのがあたちのしあわせだから。

猫と人間の寿命の違いは、進化の過程で選ばれてきた「生き方の違い」に根ざしています。
猫は短期間で命をつなぐように設計され、人間は長い時間をかけて知識や文化を次世代に伝える生き方を選んできたと考えられています。
近年では、科学の進歩によってその限界が少しずつ広がりつつあります。
老化は自然なことですが、知識と工夫によってそのスピードを緩やかにすることは可能です。
食事や環境を見直しながら、猫たちが本来持つ力を引き出し、より長く、健やかに過ごせる毎日を目指していきましょう。