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2025.11.13

猫と人間の違い【記憶編】記憶の仕組みと進化の背景―忘れることにも意味がある?[#猫研究所]

猫と人間の違い【記憶編】記憶の仕組みと進化の背景―忘れることにも意味がある?[#猫研究所]

■人間と猫の違いシリーズ:vol.6(記憶編)

猫と人間。どちらも記憶を持ち、過去の経験をもとに行動します。しかし、その「記憶の質」や「記憶の使い方」は、驚くほど違います。
この記事では、猫と人間の記憶の違いを、脳の構造・記憶の種類・進化の目的・感情との関係などの観点から解説します。

人間の脳は、前頭葉・海馬・扁桃体などが高度に発達しており、長期記憶・短期記憶・作業記憶を使い分けています。特に海馬は、経験を整理し、必要な情報を長期記憶へと変換する役割を担っています。
猫の脳にも海馬はありますが、構造は人間ほど複雑ではありません。猫の記憶は、生存に直結する情報(危険・快適・食べ物・縄張り)を優先して記録する傾向があります。

CAT's TALK

ゴロー

ゴロー

ボクちんは、ご飯の場所とイヤな音は絶対に忘れないであります!

ランラン先生

ランラン先生

それは“生存記憶”って呼ばれるものですね。猫は必要なことだけ覚えるんですよ。

人間の記憶は、大きく分けて「エピソード記憶」と「手続き記憶」に分類されます。

■エピソード記憶(出来事の記憶)

エピソード記憶とは、「いつ・どこで・誰と・何をしたか」といった時間や場所、感情を伴う出来事の記憶です。
たとえば、「昨日の夕方に友達とカフェで話した」「誕生日にケーキを食べた」など、個人的な体験を時系列で思い出す力が含まれます。
人間はこの記憶を使って、過去の経験から学び、未来の行動を計画することができます。
また、エピソード記憶は感情と強く結びついており、印象的な出来事ほど記憶に残りやすいのが特徴です。

■猫のエピソード記憶は?

猫にも「出来事を覚えている」ような行動は見られますが、時間や因果関係を理解する力は限定的とされています。
たとえば、「昨日怒られたから今日は静かにしている」といった時間を意識した行動は、猫には難しいと考えられています。
ただし、感情や環境の変化に対する反応は鋭く、嫌な経験を避ける行動は見られます。
これは、エピソード記憶というよりも、感覚的な学習や条件づけによるものと考えられます。

■手続き記憶(動作の記憶)

手続き記憶は、「体が覚えている記憶」とも言われ、繰り返しによって習得される動作や技能の記憶です。
たとえば、「自転車の乗り方」「ピアノの弾き方」「ドアの開け方」など、意識しなくても自然にできる動作がこれにあたります。
この記憶は、脳の中でも小脳や大脳基底核といった運動制御に関わる領域が中心で、エピソード記憶とは異なる経路で保存されます。

■猫の手続き記憶は得意

猫はこの手続き記憶が非常に優れており、繰り返しによって動作を習得する能力が高いです。
たとえば、「ドアを開ける方法」「ジャンプのタイミング」「ごはんの時間に鳴く」など、日常のルーティンを体で覚えているのです。
この記憶は、一度覚えると長期間保持されるため、猫が一度覚えた行動を忘れにくいのも特徴です。

CAT's TALK

ムー

ムー

私はドアノブを押すと開くって覚えたわ。でも昨日のことは・・・。うーん、忘れちゃったかも。

ランラン先生

ランラン先生

それは手続き記憶ね。猫は動作の記憶は得意だけど、時間の流れを理解するのはちょっと苦手なの。

ムー

ムー

でも、嫌なことはちゃんと覚えてるわよ。あの病院の匂いとか・・・!

人間は、記憶を長期間保持する能力があり、数十年前の出来事を思い出すことも可能です。これは、社会的なつながりや文化の継承に必要な能力です。
猫は、必要な記憶だけを保持し、不要な情報は早めに忘れる傾向があります。これは、脳の負担を減らし、俊敏な判断を保つための進化的な工夫とも言えます。

CAT's TALK

ナナ

ナナ

人間って、子どもの頃のことまで覚えてるんでしょ。すごすぎるー。

ゴロー

ゴロー

ボクちんは、昨日のご飯がおいしかったかどうかだけ覚えてるであります!

感情と記憶の関係:感情が記憶を強化する

人間は、感情が強く動いた出来事ほど記憶に残りやすい傾向があります。嬉しかったこと、悲しかったこと、怖かったこと、これらは脳の扁桃体が関与し、記憶を強化します。
猫も、恐怖や快適さなどの感情が記憶に影響することが知られています。嫌な経験をした場所には近づかなくなり、心地よい場所はすぐに覚えます。

CAT's TALK

ムー

ムー

この前、掃除機が鳴った部屋にはもう絶対入らないんだから。

王子

王子

ボクは日向ぼっこできる窓辺をすぐ覚えたのだ!

猫の記憶は、生存に必要な情報を効率よく保持するためのものです。狩り、縄張り、危険回避など、命に関わる情報が優先されます。
人間の記憶は、社会性・文化・学習・創造性など、より複雑な目的に使われます。記憶を共有し、物語や知識として残すことで、世代を超えた進化が可能になりました。

CAT's TALK

ランラン先生

ランラン先生

猫は“今を生きる”ための記憶、人間は“未来を作る”ための記憶なんですよ。

ゴロー

ゴロー

ボクちんは、ご飯の時間だけ覚えてれば十分であります!

人間も猫も、忘れることには意味があります。
不要な情報を削除することで、脳の処理効率を保ち、新しい情報に対応しやすくなるのです。
人間は睡眠中に記憶を整理し、重要な情報を定着させます。
猫も睡眠が多い動物で、記憶の選別と脳の休息を同時に行っていると考えられています。

CAT's TALK

ムー

ムー

寝るって、ただ休むだけじゃないのね。記憶の整理もしてるのよ。

ナナ

ナナ

あたちは寝てる間に、抱っこされて幸せだったことを思い出してるの。

猫にも人間にも、それぞれに「記憶のらしさ」があります。
猫は「生きるための記憶」を選び、人間は「つながるための記憶」を育ててきました。
進化の違いが、記憶の使い方にも現れているのです。そして今、猫と人間はその違いを補い合いながら、共に暮らしています。