- コラム
- 獣医師監修
2026.06.11
【獣医師さんに聞いてみた】ウェットフードをあげると歯石が付きやすくなるって本当?だからあげない方がいいの?
「ウェットフードは歯に残りやすいから、歯石が付きやすい」
そんな話を聞いて、与え続けてよいのか迷ったことはありませんか。
たしかに、ウェットフードはドライフードに比べてやわらかく、噛んだときの歯との「こすれ」が少ないぶん、歯垢が残りやすい面はあると考えられています。実際、食事の形状によって歯石や歯肉炎のスコアに差がみられたという報告もあり、ウェット中心の食事は口腔ケアをしない前提ではやや不利、という見方には一定の根拠があります。
ただし、ここで「じゃあウェットフードはやめた方がいい」と結論づけるのは早計です。
なぜなら、猫の健康を考えるうえで、口の中だけを切り離して考えることはできないからです。
■猫の健康や体調に関する疑問を、獣医師の視点から紐解いていくシリーズ。獣医師さんに聞いてみたシリーズはこちら


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【獣医師】菱沼 篤子
獣医学部を卒業後、動物病院での臨床・栄養指導を経験した後に公的機関で獣医師として勤務。現在はtamaのアドバイザー、商品開発などに携わる。中型犬、小型犬と一緒に暮らしていますが、猫のことも大好きです
ウェットフードは歯石の原因になる?
まず整理しておきたいのは、歯石の直接の原因はウェットフードそのものではないということです。
歯石は、口の中に残った歯垢(プラーク)が時間とともに石灰化してできるもの。問題の中心にあるのは細菌や歯垢の蓄積であり、フードの種類だけで決まるわけではありません。毎日の歯みがきや、歯垢をためにくくする工夫の方が、口腔環境には大きく影響します。
とはいえ、ドライフードには噛むことで歯の表面を多少こすれる可能性があり、デンタルケア用に設計された粒の大きいフードでは、その効果が期待できるものもあります。一方で、ウェットフードはやわらかく、歯の表面に残りやすい傾向があるため、何もしなければ、歯垢がたまりやすい側面はある、という理解が現実的です。
では、ウェットフードはあげない方がいいの?
結論からいえば、あげない方がいい、とは言えません。むしろ、積極的に活用したい場面は多くあります。
その理由は、水分です。猫はもともと、のどの渇きを強く感じにくい動物です。祖先が乾燥した環境で暮らしていた背景から、食事から水分をとることに適応してきました。そのため、水だけで十分な量を飲む習性はあまりなく、慢性的に水分が不足しがちになるケースも少なくありません。
ウェットフードは一般的に70〜80%ほどの水分を含んでおり、食べながら無理なく水分を補えるのが特長です。日々の水分摂取を自然に支えられるという点で、猫の体にとって非常に大きなメリットを持つ選択肢といえるでしょう。
実際に、食事中の水分量を比較した研究では、ウェットフードを与えた猫はドライフード中心の猫に比べて尿量が明確に増加し、より薄い尿になることが確認されています。たとえば、ある試験ではウェットフードを与えた場合、尿量が約1.7倍(約28.8mL → 約49.5mL)に増え、尿の濃さも低下する結果が報告されています。さらに別の研究でも、ウェットフードの割合を増やすほど水分摂取量が増え、尿量が約36%増加し、体内の水分保持量も向上するとされています。
こうした変化は単に「おしっこの量が増える」にとどまらず、尿がしっかりと薄まることでミネラル濃度が下がり、結石や膀胱トラブルのリスクを抑える方向に働きます。水分を多く含む食事は、猫の体にとって無理なく続けられる水分補給であり、結果として全身のコンディション維持にもつながっていきます。
歯石はケアによってある程度コントロールできますが、水分不足は放置すると命に関わる問題につながる可能性もあります。「歯石が気になるからウェットフードは控える」という判断よりも、「ウェットフードで水分をしっかり補いながら、歯のケアをどう補うか」という視点で考える方が、猫の体全体を見たときには現実的ではないでしょうか。
フードの選択はひとつの側面だけで判断するのではなく、体全体のバランスを踏まえて選ぶことが大切です。
優先すべきなのは「ウェットをやめること」ではなく「ケアを足すこと」
ここで大切なのは、「歯石が気になるからウェットをやめる」ではなく、「ウェットを活かしながら歯のケアを行う」という発想です。
歯石は、ある程度までは予防や管理が可能です。毎日の歯みがきが理想ですが、難しい場合でも、口元に触れる練習から始めたり、デンタルサプリメントなどを取り入れたりと、現実的に続けやすい方法はいくつかあります。もちろん、すでに硬くこびりついた歯石は家庭で取ることができないため、必要に応じて動物病院での処置が必要です。
また見落とされがちですが、ドライフードを与えているからといって歯石が防げるわけではありません。一般的なドライフードはあくまで食事であり、口腔ケア専用に設計されたものを除けば、歯垢の蓄積を完全に防ぐ効果は期待できないのが実際のところです。
つまり、ウェットフードかドライフードかに関わらず「食事だけで歯石は防げない」という前提に立つことが重要です。そのうえで、水分補給のメリットを持つウェットフードを活かしながら、歯のケアをどう組み合わせるかを考えることが、無理なく続けやすい現実的な選択といえるでしょう。
歯石と水分、どちらを重く見るべき?
この問いに対しては、猫の体質を考えると、多くのケースで水分摂取の確保を優先して考える価値が高いと言えます。もちろん、重度の歯周病や口腔内の強い痛みがある場合は別途診察が必要ですが、一般的な日常管理の話でいえば、歯石がつきやすい可能性だけを理由にウェットフードを遠ざけるのは、少しもったいない判断です。
口腔内の健康は大切です。けれど、猫の体は口だけでできているわけではありません。泌尿器や腎臓の負担、脱水のしやすさ、食欲の維持まで含めて考えると、ウェットフードのメリットはとても大きいのです。
さらに整理すると、口腔ケアは歯みがきやデンタルケア用品などで補うことができますが、水分補給はこうした方法で代替することが難しく、食事からいかに自然に取り入れるかが重要になります。その点で、ウェットフードは日常的に水分を補える手段として非常に効率がよく、猫の体全体のコンディション維持に大きく貢献してくれる存在といえるでしょう。
まとめ|ウェットフードはやめるより、活かし方が大切
ウェットフードは、ドライフードに比べると歯垢が残りやすく、歯石の面ではやや不利な側面があります。ですが、それだけを見て「与えない方がいい」とは言えません。猫にとって水分摂取はとても重要で、ウェットフードで補える水分の価値は、健康管理全体の中でかなり大きいからです。
だからこそ、答えはシンプルです。ウェットフードは上手に取り入れてOK。あわせて歯石ケアも行う。この両立こそが、無理なく続けやすく、猫の体を全体で守る現実的な選択といえるでしょう。

