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2026.07.02

【猫の医療最前線】猫の腎臓病はいつから食事を変える?最新研究でわかった「早めがいい」理由[#獣医師監修]

【猫の医療最前線】猫の腎臓病はいつから食事を変える?最新研究でわかった「早めがいい」理由[#獣医師監修]

■猫の腎臓病は、気づいたときには進んでいることが多い

猫の腎臓病は、静かに進行する病気として知られています。目立った変化が出にくく、食欲があり元気に見える状態が続くことも少なくありません。しかしその間にも、体の中では少しずつ腎臓への負担が積み重なっています。
腎臓は、機能が一部低下しても残った部分が補うため、初期には症状が表れにくい特徴があります。そのため、体の変化として症状が見えてくる頃には、すでに腎臓への負担がある程度進んでいることも少なくありません。水をよく飲む、尿の量が増える、体重が減るといった変化は、そうした段階で見られるサインのひとつです。
だからこそ腎臓ケアでは、血液検査の結果で明確な異常が出てから考えるのではなく、数値の変化や年齢、日々の小さなサインをもとに、少し早めに食事を見直す視点が重要になります。特に近年は、クレアチニンよりも早い段階で変化を捉えやすい「SDMA」といった検査項目も活用されるようになり、より早期に腎臓の状態を把握することが可能になっています。
そして近年、この「早めに見直す」という考え方を裏付ける研究も報告されています。2026年の研究では、初期段階から食事管理を行うことで、腎臓病の進行がゆるやかになる可能性が示されました。
こうした新しい知見も踏まえながら、この記事では「いつから、どのように食事を見直すべきか」を整理していきます。

■最新の研究や話題から猫の医療をわかりやすく紹介するシリーズ。猫の医療最前線シリーズはこちら

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獣医師 菱沼 篤子

【獣医師】菱沼 篤子

獣医学部を卒業後、動物病院での臨床・栄養指導を経験した後に公的機関で獣医師として勤務。現在はtamaのアドバイザー、商品開発などに携わる。中型犬、小型犬と一緒に暮らしていますが、猫のことも大好きです

これまでの考え方は「悪くなってから食事を変える」だった

これまで一般的には、腎臓の数値が明確に悪化してから、腎臓に配慮した療法食へ切り替える考え方が中心でした。具体的には、クレアチニンなどの腎臓の働きを示す数値が基準を超えたり、血液中の老廃物(BUN)が増えたりといった変化が確認されてから、はじめて食事の見直しが検討されるケースが多く見られました。
療法食は、タンパク質やリン、ナトリウムなどを調整し、腎臓への負担を軽減するよう設計されています。つまり「治療の一部」として使われる食事です。IRIS(国際腎臓学研究グループ)でも、食事管理はリンの調整や栄養維持、進行抑制などを目的として位置付けられています。
一方で、療法食は嗜好性の問題もあり、急な切り替えで食べなくなることもあります。そのため、「まだ数値が悪くないうちは現状維持」という判断も、これまでは自然なものとされてきました。

2026年の研究で注目された「初期からの食事介入」

こうした考え方に変化をもたらしているのが、近年の研究です。
2026年にJAVMA(アメリカ獣医師会が出している学術雑誌)に掲載された研究では、初期の慢性腎臓病と診断された猫1,430頭を対象に、療法食を継続した群とそうでない群を比較。その結果、療法食を取り入れていた猫では、進行リスクが低く、生存期間も長い傾向が示されました。
この結果が示しているのは「悪くなってから支える」のではなく、「余力がある段階で負担を減らす」ほうが有利という考え方です。
食事の役割は、治療から予防・維持へと、少しずつ変わり始めています。

「早めがいい」= リンなどを状態に合わせて整えることが大切

腎臓のケアではリンの調整が重要なポイントになります。腎臓の働きが落ちてくると、体内のリンが排出されにくくなり、負担につながることがあるためです。そのため、腎臓に配慮した食事ではリンの量をコントロールする設計がとられています。
ただし、リンは本来、体にとって必要な栄養素でもあります。骨や歯の維持、細胞の働き、エネルギー代謝などに関わっているため、健康な状態の段階で過度に減らしてしまうと、別の面でバランスを崩す可能性があります。

重要なのは「少なければよい」という考え方ではなく、その時点の腎臓の状態に合わせて、適切な範囲に保つことです。
たとえば、健康な状態であれば、総合栄養食の基準内でバランスよく摂ることが基本になります。一方で、年齢や検査結果によって腎臓への負担が気になる場合には、リンが極端に多すぎない設計の食事を選ぶといった見直しもひとつの方法です。

このように、早い段階では、療法食も含めた選択肢の中から、その子の状態に合わせて調整していくこと。健康な状態では、総合栄養食の基準を満たしながら、リンが過剰にならないこと(目安として0.7〜0.9%前後)を意識することが、腎臓への負担を抑えることにつながっていきます。

総合栄養食と療法食の違い

総合栄養食は、健康な猫の栄養バランスを満たすよう設計されています。AAFCO基準では、リンを含めすべての必須栄養素に最低必要量が定められており、大きな栄養不足が起きないように作られています。
つまり、健康な猫にとっては「安全に続けられる基準」です。
ただしこれは、あくまで健康維持を前提とした設計です。腎臓への負担を軽減することを目的に最適化されているわけではありません。

一方、療法食は腎臓への負担軽減を目的に、リンやタンパク質の量を調整した食事です。
つまり、

・総合栄養食=健康維持
・療法食=状態に合わせた調整

と、役割が異なります。

療法食は、獣医師の診断をもとに導入する

早期介入が重要とはいえ、療法食は自己判断で始めるものではありません。
その理由のひとつが、療法食は健康な猫のための食事ではなく、特定の状態に合わせて栄養バランスを調整した食事だからです。腎臓病に配慮した療法食では、リンやタンパク質、ナトリウムなどが調整されており、腎臓への負担を軽減することを目的としています。
こうした設計は「体への負担を減らす」ためのものであり、健康な状態の猫にとっては、必要な栄養をやや制限した状態になる場合もあります。そのため、状態に合っていないタイミングで取り入れてしまうと、体重や筋肉量の維持に影響が出る可能性もあります。
療法食を取り入れたあとは、状態を確認するために定期的な検査を行いながら、必要に応じて内容を見直していくことも重要です。
食事は一度変えれば終わりではなく、体の変化に合わせて調整し続けていくものです。だからこそ療法食は、自己判断で切り替えるのではなく、獣医師と相談しながら、その子の状態に合った形で取り入れていくことが大切とされています。

早期ケアは「調整」

早期の腎臓ケアでは、食事を強く制限するのではなく、腎臓への負担を増やさないよう整えていくことが大切です。
腎臓病は一般的にステージ1〜4に分けて考えられますが、初期にあたるステージ1〜2では、まだ体が大きく崩れている段階ではありません。そのため、この時期のケアは「制限すること」よりも「負担を増やさないよう調整すること」が中心になります。
近年では、療法食もステージ3以降だけでなく、ステージ1〜2の段階から取り入れることで、進行をゆるやかにする可能性があると報告されています。ただし、すべての猫に早い段階から療法食が必要というわけではありません。
状態によっては、総合栄養食をベースにしながら、リンが過剰にならないよう調整したり、水分をしっかりとれる食事に見直したりすることで、十分に負担をコントロールできる場合もあります。
「療法食にするかどうか」だけで判断するのではなく、その子の今のステージに合わせて、無理のない形で食事を整えていくことが大切です。

まとめ

2026年の研究では、腎臓病の初期段階から療法食を取り入れることで、進行がゆるやかになる可能性が示されました。
ただし重要なのは、早く制限することではなく、早く状態を把握すること。そして、その状態に合わせて適切に調整することです。
腎臓ケアの本質は、リンを減らすことではなく、腎臓への負担をコントロールすること。
食事を変えるタイミングは、「遅れないこと」と同じくらい、「その子に合っていること」も大切です。焦らず、しかし後回しにしすぎず。日々の変化と向き合いながら、無理のない形で食事を整えていくことが、これからの腎臓ケアにつながっていきます。