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2019.11.06

AAFP学会のガイドラインから考える。猫の複数飼育での注意点

AAFP学会のガイドラインから考える。猫の複数飼育での注意点

猫同士が寄り添って寝ている姿・・・。猫と暮らしているみなさまなら、一度は憧れたことのある景色のひとつではないでしょうか。
今回は、私たちと同じく猫と暮らし、猫たちが寄り添い寝ている姿に憧れたことのあるDr.マイが、複数頭の猫と暮らす際の注意点を猫の習性や行動といった視点から調べてくれました。

■ この記事を書いた人

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獣医師:庄野舞
東京大学 農学部獣医学科卒業。
東京大学付属動物医療センターにて、血液腫瘍科、神経内分泌科、消化器内科で従事。

たくさんのペットの生死を見てきて、共に戦った飼い主さんが最終的に願うのは「食べさせてあげたい」という思いであることに気づく。
現在は、病気予防のふだんの食事のこと~漢方、植物療法の世界の探求に励む。はじめの一歩に漢方茶マイスターを取得。
得意分野は、犬猫の血液腫瘍と回虫。

猫の習性

猫は犬と異なり、単独で捕食行動をしながら生きていく動物です。そのため、ほかの猫との社会的なつながりが必須ではないことが特徴です。
犬の場合は集団行動を行うため、側にいる犬たちとはできるだけ仲良くしようとする行動が見られますが、猫の場合そのようなことはありません。猫たちは、一度仲がこじれると修復することに意味がないと感じるために、猫関係の修復は大変難しいとされています。

また、動物たちがそれぞれの社会において精神的に自立することを『社会的成熟期』と呼ぶのですが、猫の場合、これは2~3歳の間に起きます。この年齢を超すと、上記に記載した単独行動が目立ち、社会的なつながりの希薄化が更に増強されるようになります。

まず、猫の生活環境において大事なこと

そんな単独行動が大好きな猫たちは、縄張り意識がとても高いです。これは家の中で過ごしている猫たちにも言えることで、この縄張りという観点から、生活空間を作ってあげることが大事になっていきます。
では、猫にとって快適な生活空間とはどのようなものでしょう。

猫に特化したアメリカの学会AAFP(American Association of Feline Practitioners)は、快適な環境づくりのガイドラインとして、5つの項目をあげています。

1.)安全で安心できる場所を用意すること。

キャリーケースなどの身を隠せる場所やキャットタワーなど、周囲を見渡せる場所を作ることをすすめています。

2.)猫にとって重要な必要物資を複数個所・場所を離して設置すること

必要物資とは、トイレ・フード・水・爪とぎ・オモチャ・休憩場所を指し、これらは室内にいる頭数+1個ずつ(1頭なら各2個)用意したうえで、それらの距離を十分に取ることを推奨しています。

3.遊びや捕食行動の機会を与えること。

ひとり遊びをしながらフードが出せるオモチャを与えるなど、フードを使って捕食行動を真似た動作をさせるとストレスがたまらないとされています。

4.)人と猫の社会的な関係を築くこと。

猫自身がコントロールしていると思わせられる関係性にすることが大事とされています。あくまで猫の無理にならないよう、猫のペース、猫の好むスタイルでの交流の心がけが推奨されています。

5.)猫の嗅覚の重要性を尊重した環境を用意すること。

猫はヒトよりも明らかに嗅覚が鋭いため、匂いの強いものや刺激臭のあるものを室内に置かないこと、その他*1フェリウェイの利用なども積極的に推奨しています。

あらためて、この5つがうまくできているか、確認してみるとよさそうですね。

フェリウェイとは

*1 猫の頬から分泌されるフェイシャルフェロモンF3に注目して開発された製品です。 猫のストレス緩和を目的としています。

新しい猫を迎えるにあたってのステップ

猫を新しく自宅に迎え入れようと思ったとき、推奨されているステップがあるのでご紹介いたします。

まず、先住猫が新しい猫を迎え入れられる状態なのかを確認します。
先住猫の性格が元々
・臆病である
・フレンドリーでない
・問題行動がある
・慢性疾患を抱えている
これらの場合は、新しい猫を受け入れることをあきらめましょう。

その次に、猫の頭数の上限を決めましょう。一度、複数飼育を始めると、猫の数がどんどん増えていってしまうケースをよくみかけます。先にお伝えした通り、猫たちには一頭一頭スペースが必要です。現在の間取りから、猫の上限頭数を先に決めておくことを推奨しています。
また、できることならば、先住猫が社会的成熟期を迎える前に、複数飼育となるような環境にすべきと思います。

その上で、新しい猫を迎えることになったなら、下記の流れで徐々に先住猫と会わせていくのがよいとされています。

1.)新しい猫用に専用の部屋を準備

2頭をいきなり同じ部屋で会わせてしまうと、驚きと警戒でその後、仲が悪くなってしまうことが多くなります。そのため、まずは新しい猫を隔離しましょう。

2.)匂いの交換

その次に、湿らせたティッシュなどで、2頭の顔をそれぞれ拭います。それをお互いの身体にこすり付けてみたり、そのティッシュの上にオヤツを乗せてみたりして、まずは匂いから慣れさせていきます。匂い付きティッシュの上のオヤツを食べるようになったら、この段階はクリア、次に進みます。

3.)境界線越しに対面

2頭をそれぞれケージに入れ、ケージ越しに会ってもらいます。この対面の時間にもオヤツをあげると効果的です。ケージは時々入れ替えてみてください。

4.)時間を区切って対面

ケージ越しの対面に慣れてきたかな?と思ってきたら、2頭を同じ部屋に入れて対面してもらいます。この時、もし可能なら、1人1頭面倒を見れるように、その室内には2人いることが好ましいとされています。この対面の時間を数分から少しずつ延ばしていき、最終的には同じ部屋で過ごしてもらうようにします。

推奨ステップが細かくて、私は少し驚きました。ここまでしっかり準備をして会わせれば、犬猿の仲になることは少ないようです。

すでに複数で暮らしている場合に気を付けたいこと

すでに複数の猫たちと暮らしている場合は、AAFPが推奨しているガイドラインに沿って、少しずつ生活環境を整えてあげましょう。特に、トイレ・フード・水・爪とぎなどの物資が、猫たちの数+1個用意してあるか。また、食事に関して、食器を並べてフードをあげるよりは、時間をずらすか、場所をずらすなどしてフードを与えた方が、猫同士の関係はうまくいくとされているようです。食事の時のお皿が近すぎないか、この辺りは確認してみてもよいかもしれません。

また、今は仲良く暮らしていても、ちょっとした変化で仲がこじれてしまうことも。
よくあるのが、1頭だけが病院に通っていて、自宅に帰ってきたときに病院の匂いが猫についていて、それが原因でほかの猫に距離を取られてしまう、というケースだそう。病院帰りの猫は、自宅に帰ってきたら一旦隔離して、部屋の匂いに馴染んでから他の猫たちに会わせる、というのが良いようですよ。

まとめ

・猫はもともと単独行動を好む
・猫が喜ぶ環境作りのために、必要物資は猫の頭数+1個準備する
・新しい猫を迎え入れる場合は、すぐに対面させず、必要なステップを踏む

おわりに

私も猫たちが添い寝している姿に憧れ、1頭目が自宅に来て7年を迎えた頃、2頭目を迎え入れました。しかし、仲は悪くなかったものの、寄り添って寝てくれるほど仲良しにもならず、今回学んだことを知っていたら、もうちょっと違う関係になったのかな・・・?とも思ったりもします。
これから2頭目、3頭目を迎え入れる方、すでに一緒に暮らしている方、できることもたくさんあると思いますので、ぜひ参考にしてみてくださいね。

■ この記事を書いた人

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■ 獣医師「庄野舞」
東京大学 農学部獣医学科卒業。
東京大学付属動物医療センターにて、血液腫瘍科、神経内分泌科、消化器内科で従事。
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