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2019.09.13

慢性腎臓病の早期発見につながる!?新しい血液検査項目「SDMA」について

慢性腎臓病の早期発見につながる!?新しい血液検査項目「SDMA」について

猫たちの健康診断などで「腎臓病の早期発見につながので、SDMAも追加で測ってみましょう。」と、獣医さんから提案されたことがある方も増えてきているのでは。
この「SDMA」って、どんな検査なの?どうして腎臓病の早期発見につながるの?検査を受けるときの注意点って何かあるの?
今回は、そんな疑問を若手獣医師のDr.マイに調査してもらいました。

■ この記事を書いた人

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獣医師:庄野舞
東京大学 農学部獣医学科卒業。
東京大学付属動物医療センターにて、血液腫瘍科、神経内分泌科、消化器内科で従事。

たくさんのペットの生死を見てきて、共に戦った飼い主さんが最終的に願うのは「食べさせてあげたい」という思いであることに気づく。
現在は、病気予防のふだんの食事のこと~漢方、植物療法の世界の探求に励む。はじめの一歩に漢方茶マイスターを取得。
得意分野は、犬猫の血液腫瘍と回虫。

SDMAとは?

「SDMA」とは、2017年の冬頃、新しい腎臓の評価方法として日本で血液の外注検査として計測できるようになった血液検査の項目のひとつです。外注検査とは、病院内で計測できず、外の検査会社に血液を送って、そこで計測してもらう検査のこと。
SDMAは、対象性ジメチルアルギニンの略で、アミノ酸の一種であるアルギニンが体内で変化したもの(メチル化*)です。
摂取したタンパク質が体内でアミノ酸に分解される時にSDMAは血液中に放出されます。そして、血液中に放出されたSDMAは、そのほぼ全てが腎臓でろ過され、尿中に排泄されます。
この「ほぼ全てが腎臓でろ過され、尿中に排泄される」という特性が重要です。なぜなら「腎臓の機能」=「腎臓での血液のろ過量」と近似しているため、ろ過され尿として排泄されるはずの物質が血液中に多いことが腎機能の低下を示唆すると考えられるから、ということになります。
これまで主に、この考え方で計測されてきたのが「クレアチニン」です。クレアチニンという言葉は聞いたことがある方も多いかもしれません。クレアチニンは動物病院内でも計測できる血液検査項目のひとつで、腎機能の指標として古くから用いられてきました
そんな中、新しく項目として計測できるようになったのが、このSDMAになります。

メチル化とは

*1 物質は原子のつながりから成り立っていますが、何らかのきっかけによって、物質の中にある水素(H)がメチル(CH3)に置き換わることをメチル化と呼びます。 このメチル化、生物の個体の中ではかなり重要な役割を持っており、このメチル化が起きているか起きていないかで、その細胞の遺伝子が発現するかどうかが決定されるとされています。この遺伝子発現の制御システムのことをエピジェネティクスと呼び、一つの学術分野として盛んに研究されています。

SDMAの特徴

このSDMAの計測が出現する前まで、腎機能の評価は主に血液検査(クレアチニン*・BUN・リン)、尿比重によって行われてきたことが多かったと思われます。特に重視されていたのがクレアチニンでしたが、このクレアチニンは腎機能が約75%喪失するまでは上昇しないとされています。つまり、血液検査において腎機能が低下している(つまりは腎臓病である)と診断された頃には、すでに腎臓の余力が25%しか残っていないことになるのです。この診断までに時間がかかることが慢性腎臓病の大きな課題のひとつでした。

そのような中、SDMAは腎機能が40%喪失した時点で上昇がはじまるとされています。クレアチニンとSDMAの計測を行った研究では、猫では平均17ヶ月早く、腎臓病を発見できる可能性も示唆されているほど。また、クレアチニンは筋肉で生成される物質のため、老化や痩せた猫において、腎機能とは関係なくクレアチニン値が下がることも知られていますが、SDMAは筋肉量には影響されず、あくまで腎機能を特異的に反映するとされています。

血液検査におけるクレアチニンについて

*1 健康な状態であれば、血液中のクレアチニンは腎臓の「糸球体」という組織でろ過され、尿中に排出されます。腎臓の機能が低下していると、尿中に排泄される量が減少し、結果として血液中に溜まることから、血液検査によって、クレアチニンの数値が腎機能の評価として重視されています。

SDMA検査の注意点

ここまでの内容だと、SDMA検査は今までの検査よりも優れていて、SDMAさえ測っておけば腎臓病の早期発見が容易にできる、と思われてしまいがちですが、注意すべき点もあるようです。

SDMA検査の注意点:その1

ひとつめは、検査結果のブレが大きいこと。
SDMAをよく計測する獣医師に聞くと、腎臓病の疑いがある子で計測しても数値があまり上がらず、そうではない子で高い、ということもよくあるようです。なので、腎臓病の診断やステージ決定の際には、SDMAは「持続した」高値であることが必要になってきます。外注検査であるため、すぐに検査結果が手元に届かない結果であるうえ、一度の検査で診断につながらないことがある、というのは覚えておきたいですね。

SDMA検査の注意点:その2

ふたつめが、本当に既存の検査の精度を越えられるのか?という点。
1dL(デシリットル)中に含まれるSDMAが、0~14μg(マイクログラム)であることが「SDMAの基準範囲」とされていますが、15μg以上であった場合、すぐに腎臓病の可能性が疑われるわけではありません。SDMA検査を行っている会社のガイドラインにおいても、20μg以上であった場合は、尿検査を行ったうえで腎臓病の可能性が疑われるとされていますが、15~19μgであった場合、尿検査実施後、「他に腎臓病のエビデンス(証拠・裏付け)があるか?」確認すべきとされています。ここがSDMAの最も留意すべきポイント。たとえば、腎臓病が強く疑われるとされる、SDMAが20μg以上であった場合、実は尿比重やクレアチニンがすでに異常値である段階であることが多いのです。
一方、その他のエビデンスがないとグレーであるとされているSDMAが15~19μgの場合、エビデンスとして参考にする検査は、症状や血液検査(BUN・クレアチニン・リン)や尿検査など、従来から行われてきた検査になります。この従来の検査で異常がなかった場合、SDMAが高値(15~19μg)であっても診断には至らず、2~4週間後に再検査することが推奨されています。そしてSDMAは検査値のブレが大きいため、再検査においてもあいまいな結果となってしまう・・・ということがよくあるそうです。

また、過去の研究において腎臓のろ過機能は、クレアチニンの逆数に綺麗に比例することが示されています。SDMAの研究では、SDMAが腎臓のろ過能力と比例するかを調べていますが、この時に比較したのがクレアチニンの逆数。クレアチニンの逆数とは遜色なくSDMAが使えるという結果となっており、既存の検査(の逆数)と同程度信頼できるとされている研究結果ということになります。また最近でも、SDMAとクレアチニンは検査として同等の精度しか持たないといった異なる研究もでたため、これを元に、クレアチニンを注意深く計測しておけばSDMAは必要ないのでは?と考えている獣医師もいるようです。

最後に

注意点はありますが、腎臓病の早期発見につながる可能性のある新しい検査項目であることに間違いはありません。最近の多飲多尿が気になる・・・、など、気になることがあれば、一度かかりつけの獣医師の先生の相談してみるのもよいかもしれません。
腎臓病は早期発見できれば進行を遅らせることができる疾患です。SDMAをはじめとし、検査方法がどんどん発展していけばうれしいなと思います。

まとめ

・SDMAは腎臓のろ過能力を評価する新しい指標になりうるかもしれない。
値にブレが大きいこと、そして既存の検査との組みあわせが必須であることは留意すべきである。

■ この記事を書いた人

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■ 獣医師「庄野舞」
東京大学 農学部獣医学科卒業。
東京大学付属動物医療センターにて、血液腫瘍科、神経内分泌科、消化器内科で従事。
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