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2022.10.27

猫に青魚の脂(魚油)が危険って本当?危険と勘違いされた背景と与え方のポイント

猫に青魚の脂(魚油)が危険って本当?危険と勘違いされた背景と与え方のポイント

猫の健康維持のために色々な情報を集めていると、これって本当なの?と疑わしく感じる情報を見かけることもあります。
大好物という猫も多い青魚ですが、以前は、「青魚ばかりを猫に与えると病気になる」という説があったようです。最近ではEPAやDHAなどの猫の健康維持に役立つ成分にも注目が集まり、以前ほど敬遠されることは少なくなりました。
でも、なぜ青魚の脂が「よくないもの」といわれていたのでしょう。その背景と猫に与える時のポイントについてご紹介いたします。

猫に青魚が危険って本当?


猫にとって青魚は、適量を適切に与えていれば健康維持に大きく貢献してくれる存在です。
最近では、あえてキャットフードの原材料の一部として青魚を使用したり、青魚のオイルを使用しているフードも多くなってきています。
青魚に含まれるオイルの特長としては、オメガ3脂肪酸を豊富に含んでいることが挙げられます。

■オメガ3脂肪酸についてちょこっと深掘り

オメガ3脂肪酸は、その構造的な特長から「多価不飽和脂肪酸」の一種に分類され、猫が体内で合成することができない脂肪酸です。そのため、食事から取り入れる必要があります。

オメガ3脂肪酸の内、とくに注目されているのがEPAとDHAという2つの成分。
EPAには炎症をやわらげる作用があるといわれているほか、血液の凝固を抑制する働きがあります。
DHAは脳や神経系の発達・健康維持に役立つ栄養素で、EPA同様に血液の凝固を抑える働きがあるといわれていますが、EPAよりもその働きは落ちます。

一方、オメガ3脂肪酸には、酸化しやすく不安定という特徴があり、時間が経つとその働きを失いやすくなっていきます。フレッシュな状態で取り入れる、酸化防止に役立つビタミンEなどの抗酸化成分を合わせて取り入れることが健康に役立てるためのポイントの一つになります。

■オメガ3脂肪酸の摂取が推奨されているケース


・関節炎、変形性関節症の治療として

・循環器系(心臓など)に悩みがある場合
・慢性腎臓病の治療として
 

抗炎症作用があるEPAは、定期的に摂取することで猫の関節炎などの炎症反応を抑えることが実証されています。
また、DHAは血液中の赤血球の柔軟性を高めるので、猫の心臓などの循環器への負担を減らすといわれています。
また、シニア猫に多い慢性腎臓病の猫でも、オメガ3脂肪酸をより多く含む食事を継続的に与えることで、腎臓の機能が低下するスピードが緩やかになることが分かっています。

■青魚のオイル(フィッシュオイル)のもう一つのメリット

青魚のオイル(フィッシュオイル)は魚の美味しさをぎゅっと凝縮していて、香りも強いので、猫の食欲を刺激してくれるサポートアイテムとしても活躍してくれます。
もちろん、その子が魚好きであることが前提にはなりますが、同じフードに飽きてしまっている様子の時にフィッシュオイルを少しプラスすると食欲が復活するということもあります。
キャットフードの中には、猫のフードへの興味を持たせる目的でもフィッシュオイルを敢えて使用しているものもあるようです。

なぜ猫に青魚を与えるべきではない、という意見が出て来たの?

さて、今では猫にとって良い面が語られることが多い青魚ですが、少し前は猫に与えてはいけない食べ物として魚油が挙げられることもありました。
その背景には、「黄色脂肪症(イエローファット)」と呼ばれた猫の病気が関係していました。

■黄色脂肪症(イエローファット)とは?

黄色脂肪症(イエローファット)とは、魚油を含む食事を極端に多く摂取し続けた結果、脂肪の塊が酸化によって変質して「しこり」になったり、炎症を起こす病気です。
黄色脂肪症では、活力や食欲の低下が症状として現れたり、激しい痛みが出ることもあったようです。
この病気は、かつての日本で多く見られたもののようで、長らく原因不明の病気として考えられていたそうです。

先ほどもご紹介した通り、魚の脂に含まれるオメガ3脂肪酸は非常に酸化が進みやすい特徴があります。イエローファットも抗酸化成分が不足している状態で、魚ばかりを食べて猫の体内で魚の脂が酸化してしまうことが原因になっています。

イエローファットは、魚の脂と一緒に抗酸化成分であるビタミンEなどを摂取することで予防することが可能なのですが、昔の日本には現在のように猫に適した栄養バランスで作られた「総合栄養食」のようなフードはなく、"煮干しの出がらしに白米"とか"魚の缶詰と白米"といった食事を与える家庭もあり、漁師が釣った魚を丸ごと食べていた猫も含めて、食事の中で魚が占める割合が非常に高く、魚に由来する脂肪分が過剰となり、また抗酸化成分であるビタミンEなどが不足して黄色脂肪症になる猫が多かったようです。
このことから、猫に脂を多く含む青魚を与えるのが良くなかったんじゃないか、という意見が出始めたと考えられています。

ビタミンEなどの抗酸化成分不足が原因になっていたんですね。やっぱり食事はバランスよく、が大切です。

■今は黄色脂肪症になる猫は大幅に減っています

現在は、猫の食事の栄養バランスについて深く考える方が増え、ビタミンEなどを補った「総合栄養食」を与える人が増えたことで、最近ではほとんど黄色脂肪症になる猫はいなくなりましたし、猫の平均寿命も大幅に伸びました。(本当に良かったです。)

それなら、総合栄養食を与えてさえいれば安心なの?というと、そうではないのが厄介なところ。
総合栄養食を与えていても、酸化しているものを与えたり、ビタミンEが不足したり、オヤツを大量に与えたりしていると猫が黄色脂肪症になるリスクが出てきます。

いずれにしても、食事もオヤツも新鮮なものを適量与えることが重要というわけですね。
やはり青魚に偏った食事ではなく、栄養バランスが整った食事を継続することが重要です。とくにイエローファットの対策を意識するのであれば、ビタミンEを取り入れられているかどうかをチェックするのも良いと思います。

オメガ3脂肪酸の嬉しい働きをきちんと取り入れるためにも、酸化していないものを与えること、そして抗酸化成分を意識して取り入れるようにするだけで、イエローファットのリスクは抑えることができると思います。

正しい与え方をして猫の健康に役立てよう

猫に脂質を多く含む青魚やそのオイルを与える時には、適量を適切に与えることが重要になります。
でも、「適量って?」「適切な与え方って?」というのが正直なところ。
そこで、猫に脂が多い青魚やフィッシュオイルを与える前に、心がけたいポイントをまとめてみました。


【チェックポイント】
・ビタミンEなどの抗酸化成分を含み、栄養バランスが整った、新鮮な総合栄養食をきちんと適量食べているか?
・オヤツばかり与えていないか?
・極端に偏った食事ばかり与えていないか?


繰り返しになってしまいますが、猫の食事は栄養バランスを意識して与えることが重要です。健康に良いものであっても、そればかりを極端に続けて与えていると栄養バランスが崩れ、体調を崩してしまう原因になります。
ビタミンEを適量含み、食事のベースとなる総合栄養食を中心に、猫の体調の変化を観察しながら、下痢や嘔吐などが見られないかを観察しながら、サプリメントやオヤツとして魚油や魚を与える分には問題ありません。
また、総合栄養食のキャットフードの中で、魚を使用していたり、フィッシュオイルを適量含んでいるフードを選び、与えることで意識的にオメガ3脂肪酸を取り入れる方法も良いと思います。

おわりに

以前は、猫に与えてはいけない食材といわれたこともあった魚の油ですが、最近では猫の健康維持に役立つ成分を含むことから、積極的に取り入れる方も多くなりました。
関節、循環器系、腎臓などの持病が分かった時には魚油に豊富に含まれるオメガ3脂肪酸を積極的に取り入れることはオススメです。サプリメントやオヤツの形で無理なく取り入れられるといいと思います。
これらのお悩みはシニア猫に多いものですので、シニア期に入った頃から適切に取り入れることでQOL(Quality Of Life=生活の質)を高めることが期待できる栄養素といえるかもしれません。

ただ、過去には脂ののった青魚や魚の脂質を過剰に摂取し続け、抗酸化成分が不足している猫が病気になってしまう事例があったことも事実ですので、健康に良いからと言ってやたらに与えることには注意が必要ですし、ビタミンEなどの他の栄養とのバランスも意識したいところですね。