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2025.07.10
猫の栄養は人間と違う?健康を守るために知っておきたい必須栄養素の話
私たちと生活を共にしている猫。あまりに私たちとの共同生活が上手なため、忘れてしまいそうになりますが、猫は私たち人間とはまったく異なる栄養ニーズを持つ動物です。陸地で暮らし、同じ臓器を持つ哺乳類ですが、体の仕組みや代謝の特徴は大きく異なり、人間の食事をそのまま与えることは、猫にとっては健康リスクになりかねません。この記事では、猫にとって必要不可欠な栄養素を人間との違いを交えながら解説し、猫の健康にかかわるミネラル「リン・カルシウム・マグネシウムのバランス」について、腎臓の健康との関係を深掘りしていきます。
猫は完全肉食動物:タンパク質とタウリンの重要性
人間は動物性の食べ物(肉)と植物性の食べ物(野菜・果物・穀物など)の両方を食べますが、猫は完全肉食動物であり、植物性食品では必要な栄養素を十分に補えません。特に重要なのが動物性タンパク質と、そこに含まれるタウリンです。
タウリンは、猫にとっては、食事から摂取しなければならない必須栄養素の一つ。人間や犬は体内である程度合成できますが、猫は体内でほとんど合成できません。これは、猫が進化の過程で肉を中心とした食生活を続けてきたため、食事から常に豊富なタウリンを摂取できていたことが背景にあります。結果として、タウリンを作るための酵素が働かなくなったのです。
つまり、猫は「食べ物からタウリンを摂る前提」で体ができているため、食事でしっかり補う必要があります。不足すると、視力低下(網膜変性)や心筋症、免疫力の低下など深刻な健康障害を引き起こします。
脂質と必須脂肪酸:皮膚・被毛・脳の健康に不可欠
脂質は猫にとって重要なエネルギー源であり、オメガ-3脂肪酸(EPA・DHA)などの脂肪酸は、皮膚の健康、被毛の艶、脳の発達、炎症の抑制に役立ちます。人間は植物性脂肪からもこれらを摂取できますが、猫は動物性脂肪の方が吸収効率が高く、体に合っています。
炭水化物:猫には不要な栄養素?
猫は炭水化物をエネルギーに変えるのが苦手です。これは、体の中で糖(グルコース)を使うための酵素が少ないからです。
人間の場合、ご飯やパンなどの炭水化物を食べると、それが糖に分解されてエネルギーになります。しかし、猫はそうした炭水化物を分解して使う力が弱く、肉から得られるタンパク質や脂肪を主なエネルギー源として使っています。 猫にとって炭水化物は「ちょっとしか使えない燃料」で、肉のほうが「効率よく使える燃料」といえます。
キャットフードでも、炭水化物は補助的な役割にとどめるのが理想です。
リン・カルシウム・マグネシウムのバランス:腎臓と尿路の健康を守る鍵
猫の健康において、リンとカルシウム、そしてマグネシウムのバランスは非常に重要です。これらは骨や歯の形成に関わるミネラルであり、体内では「リン酸カルシウム」などの形で存在します。しかし、バランスが崩れると、特に腎臓や尿路に大きな負担がかかります。
■リンが多すぎるとどうなる?
1. 血中カルシウム濃度の低下と骨への影響
リンを過剰に摂取すると、体は血中のカルシウム濃度を保とうとして、骨からカルシウムを引き出して補おうとします。その結果、骨がもろくなり、骨折しやすくなることが知られています。
2. 腎臓への負担と機能低下
腎臓はリンを体外に排出する役割を持っていますが、リンが多すぎると腎臓に負担をかけることになり、腎機能が低下するリスクが高まります。特に高齢猫では、腎臓の働きが弱くなっている可能性が高いため、リンの過剰摂取は慢性腎不全の進行を早めるリスクがあります。
3. 慢性腎不全との関連性
慢性的にリンの多い食事を続けると、腎臓に負担がかかり続け、慢性腎不全のリスクが高まることがこれまでの獣医学的な調査で示されています。そのため、腎臓病の猫には「低リン」の療法食が推奨されており、実際にリン制限が腎不全の進行を遅らせる効果があるとされています。
■カルシウムが多すぎると?
カルシウムの過剰摂取は、シュウ酸カルシウム結石のリスクを高めます。また、他のミネラル(亜鉛や鉄など)の吸収を妨げることもあり、栄養バランスが崩れる原因になります。
■マグネシウムが多すぎると?
マグネシウムは神経や筋肉の働き、骨の代謝に必要な重要なミネラルですが、過剰に摂取すると尿中でリンと結合し、ストルバイト結石を形成しやすくなります。特に尿がアルカリ性に傾いた状態では、結晶化が進みやすくなります。キャットフードに含まれるマグネシウム量が0.15%以上になると、結石のリスクが高まるとされており、理想的な含有量は0.08〜0.09%程度とされています
■理想的な比率とその意味
一般的に推奨される比率は、カルシウム:リン=1.2〜1.5:1。このバランスを保つことで、骨の健康を維持しつつ、腎臓への負担を軽減できます。マグネシウムも適量に抑えることで、尿路結石の予防につながります。
水分:見落とされがちな栄養素
猫は砂漠出身の動物であり、砂漠で暮らしていた頃と体の作りが大きく変わらないため、水をあまり飲まない習性があります。そのため、ドライフード中心の食事では水分不足になりがちで、腎臓や尿路に負担がかかります。ウェットフードやスープタイプの食事を取り入れることで、自然に水分摂取量を増やすことができ、腎臓病や尿路結石のリスクの低下につながります。
まとめ:猫の健康は「猫らしい栄養バランス」から
猫の健康を守るには、以下のポイントを意識した食事管理が不可欠です:
・動物性タンパク質を中心に、タウリンをしっかり摂取
・脂質は良質な動物性脂肪から、必須脂肪酸も忘れずに
・炭水化物は控えめに、消化に配慮
・リン・カルシウム・マグネシウムのバランスを守り、腎臓と尿路の健康を維持
・水分補給を意識し、ウェットフードも活用
人間と同じように見えても、猫の体はまったく異なる仕組みで動いています。だからこそ、人間の食べ物をそのまま与えるのではなく、猫のために作られた総合栄養食や栄養バランスを考えた食事を選ぶことが、猫の健康寿命を延ばす第一歩です。

