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2025.07.17

猫の便秘は人間とちょっと違う。症状・原因から予防法まで知るべきポイントまとめ[#獣医師監修]

猫の便秘は人間とちょっと違う。症状・原因から予防法まで知るべきポイントまとめ[#獣医師監修]

猫も私たちと同様に、さまざまな要因により便秘の症状を引き起こしてしまう可能性があります。
しかし、猫も「〇日便が出なかったら便秘」という明確な定義はなく、毎日便を出しても腸内に便が残っているから便秘、ということもあります。猫は便秘になるとどのような症状を発症し、便秘を防ぐためには何をすれば良いのでしょうか。
猫が便秘になったときの症状のほかに、原因や予防方法などについて解説します。

DOG's TALK

【獣医師】菱沼 篤子

【獣医師】菱沼 篤子

獣医学部を卒業後、動物病院での臨床・栄養指導を経験した後に公的機関で獣医師として勤務。現在はtamaのアドバイザー、商品開発などに携わる。中型犬、小型犬と一緒に暮らしていますが、猫のことも大好きです

猫の便秘とは?主な症状とリスク

まず、念頭に置いておいていただきたいのが猫の便秘は人間より深刻なケースになる場合が多いということ。
それは人間だとウンチがいつものペースで出ていないと野菜を多めに食べたりサプリを飲んだりと自己判断で初期のケアができるから。
猫の場合は意識的に水分を多くとったり野菜を選んで食べたりすることができません。
また、猫の腸は人間より短くウンチが腸に溜まると腸の動きが低下しやすく悪循環に陥りやすいといった違いもあります。

猫が便秘になってしまうと、下記のような症状を発症し、さまざまなリスクをかかえることになります。

・猫が便秘になったときの主な症状

一般的に、猫は2日以上排便がなかった場合に便秘である可能性が高いといわれています。

また、排便はしているものの量は少なく回数が多すぎる、便の切れが悪い、力んでいるのに便が出ないときも便秘の可能性があります。
ウンチが長時間、腸内に滞在していると、便の水分が腸に吸収されるため、表面が硬くてコロコロした状態で排便されるようになるといった点も特徴です。

・便秘の重症化に伴うリスク

便秘を長期間放置すると、便によって腸が伸びきってしまう「巨大結腸症」を発症してしまう可能性があります。
本来の腸は伸びても元の形に戻ろうとしますが、長期間の便秘によって腸が伸びきってしまうことも。

悪化した場合は、強制的に便を取り出さなければならなかったり、伸びた腸を切除しなければならなかったりします。

巨大結腸症には「特発性」と「続発性」の2種類があり、特発性の場合は原因が不明で、結腸の運動機能が著しく低下しているため、薬物治療が効かず外科的な結腸切除術が必要になることが多いです。続発性は、便秘の他に骨盤骨折による腸の圧迫、神経疾患や腫瘍などほかの疾患や外傷が原因で二次的に起こり、原因に応じた対策が必要となります。

猫が便秘になる原因と考えられること

こちらでは、猫が便秘になる原因と考えられることを説明します。

・食事と水分不足による便秘

猫は水分不足や食事の偏りが原因で腸の働きが低下し、便秘を引き起こすことがあります。そのため、日常的に適切な水分と栄養を補給することが非常に重要です。
便をやわらかくするためには多くの水分が必要ですが、猫はほかの動物と比較するとあまり水を飲みません。なかなか水分を摂取しない場合は、食事から水分補給をサポートできるウェットフードが役立ちます。

・運動不足や生活環境の影響

猫も運動することによって腸をはじめとする内臓の動きが活発になるため、お通じが良くなります。

しかし、ケガや加齢により運動量が減少すると内臓の動きが落ち着いてくるため、便秘を発症する可能性があるのです。

猫に適度な運動を促すために、おもちゃを使ったり、キャットタワーを設置したりしてみましょう。

・病気や薬の影響で便秘になる場合

何らかのケガや病気を患っていて治療用に服薬をしている際、薬の影響で便秘を引き起こす可能性があります。

たとえば、利尿剤を服用させている場合、水分が体外に排出されるため体内の水分が不足することがあるのです。水分を奪われると便から水分を吸収しようとするため、結果として便秘につながることが考えられます。
また、病原菌に対して働きを目的として投与する抗生物質では、病原菌だけではなく腸内の善玉菌にも働いてしまう場合があり、下痢や便秘などの症状がでることがあります。

便秘の原因には、神経障害(腰仙部髄損傷、馬尾症候群)、骨盤骨折、腫瘍、直腸狭窄なども含まれます。特に骨盤狭窄は交通事故などによる過去の骨折が原因となっていることがあり、発見が遅れることが多いのですが、慢性便秘を引き起こす代表的な原因のひとつです。

・年齢による腸の動きの低下

高齢猫は腸の蠕動運動が低下しやすく、慢性的な便秘になりやすい傾向があります。腎臓病や糖尿病などの基礎疾患がある場合は、便秘が悪化するリスクが高いため、定期的な健康診断と獣医師の指導のもとでのケアが重要です。また、便秘が繰り返される場合は、単なる生活習慣の問題ではなく、消化器疾患や神経系の異常が隠れている可能性もあるため、早期の精密検査が推奨されます。

猫の便秘を解消する方法

猫の便秘を解消するためには、下記を実践してみましょう。

・食事改善による便秘予防

便秘を解消するためには水分を摂取することが重要ですが、飲み水だけではなく食事の際にも工夫することで確保できます。ドライフードに水分を加えたり、ウェットフードに変えたりするなどによって食事から水分を摂取させられるように改善することが便秘解消の糸口になることも。

・水分摂取を促す工夫

飲み水から水分を摂取してもらうために猫が安心して清潔な水を飲める環境に整えることが大切です。
また、容器についても猫によって好みが分かれるほか、特にシニア猫の場合は飲みやすい位置に容器を置けるよう、食器台の高さなどにも気を配りましょう。

・適度な運動を促す方法

猫のおもちゃで一緒に遊んだり、キャットタワーを用意して上り下りの運動を促したりすることも有効です。

・猫のストレスを軽減する工夫

猫はさまざまな要因でストレスを感じてしまい、食欲不振や水分を摂取しなくなった結果、便秘に陥ってしまう可能性があります。ストレスの原因は猫ごとに異なるため、個々の状況に応じた対応が重要です。
例えば、トイレを静かな場所に設置することで、猫がリラックスして排泄できるようになったり、爪とぎや遊びを取り入れて気分転換を促すこともありますが、すべての猫に同じ効果があるわけではありません。そのため、猫の性格や好みに合わせて適切な方法を見つけることが大切です。

・ホームケアの限界と動物病院の受診目安

先述したものは自宅でもできる便秘の解消方法ですが、それでも解消されないといったときは専門的な知識が必要です。なかなか便秘が解消されず、ホームケアに限界を感じたときは動物病院で診療を受けましょう。

獣医師による診断では、レントゲンや血液検査、直腸検査などを通じて、便秘の原因を特定します。原因によって、適切な処置が変わるため、動物病院の受診も検討してください。

便秘に有効なサプリメントや医薬品

猫が便秘のときに腸内環境を整え、排便を促すサプリメントや医薬品は店頭でも販売されています。また、オイルやヨーグルトを与える方法もありますが、いずれの場合でも猫の体質によって合う・合わないことがあります。
排便しないときに用法・用量を超えて与えてしまうとほかの部位が悪くなることがあるため、与える際には注意しましょう。

医薬品では、高張性緩下剤や、膨張性緩下剤、潤滑性緩下剤、消化管運動改善薬などが使用されます。これらは便の性状や腸の動きに応じて使い分ける必要があり、獣医師の指導が不可欠です。

おわりに

今回は、猫が便秘になる原因や予防方法などについて解説しました。一般的に、猫は2日以上排便がなかった場合に便秘である可能性が高いといわれています。便秘を放置すると巨大結腸症を発症する可能性があり、場合によっては手術をしなければなりません。
下記の方法はご家庭でも実践できる便秘の解消方法です。

・食事改善による便秘予防
・水分摂取を促す工夫
・適度な運動を促す方法
・猫のストレスを軽減する工夫

しかし、3日間ウンチが出なかったり、ホームケアに限界を感じたときは、動物病院で診療を受けましょう。日頃から猫の様子を観察しておき、様子がおかしいと判断したときは早急な対応や環境改善などを行うことが重要です。
猫の便秘は軽度でも放置せず、日常的な観察と早めの対応を検討してください。