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2025.08.07
猫ともっと仲良くなる方法|信頼関係を築く7つのステップと1週間チャレンジ[#獣医師監修]
猫ともっともっと仲良くなりたい。それは、かわいい猫と一緒に暮らす私たちの願い。
猫は犬と違ってマイペースな子が多く、なかなか心を開いてくれないこともあります。でも、猫との信頼関係を築くことは十分可能です。
それには、猫の習性や気持ちを理解して接することが大切なポイントのひとつ。
この記事では、行動生態学的研究の論文などを参考に、猫と仲良くなるための方法を獣医師と一緒に基本的な7つの項目にまとめ、実践的な「1週間チャレンジ」も作成しました。
猫との距離を縮めたい方、もっと深い絆を築きたい全ての方に、ぜひ参考にしていただけるとうれしいです。


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【獣医師】菱沼 篤子
獣医学部を卒業後、動物病院での臨床・栄養指導を経験した後に公的機関で獣医師として勤務。現在はtamaのアドバイザー、商品開発などに携わる。中型犬、小型犬と一緒に暮らしていますが、猫のことも大好きです
猫と仲良くなるには「猫の本質」を理解することから
猫と仲良くなるには「猫の本質」を理解することから
猫は本来、単独行動を好む動物です。群れで生活する犬とは異なり、猫は自分の縄張りを大切にし、他者との距離感を慎重に保ちます。
また、一見のんびりしているように見えても、突然俊敏に動いたり、警戒心を強めたりすることがあります。これは、猫が環境や相手の行動に応じて、自分の行動モードを切り替えているためです。
・警戒、探索モード:周囲を注意深く観察し、素早く動く。触られるのを嫌がる。
・親和、リラックスモード:体をゆるめて寝転び、撫でられることを受け入れる。家族に甘える。
このモードを見極めることが、猫との信頼関係を築く第一歩です。
猫が活発に動いているときは無理に触らず、落ち着いているときにそっと撫でるなど、猫の状態に合わせた接し方が重要です。
猫と仲良くなるためのステップ
① 猫のペースを尊重する
猫は「自分で選んだ相手」に心を開きます。
無理に抱っこしたり、追いかけたりするのは逆効果。猫が近づいてくるのを待つ姿勢が信頼につながります。
猫は人との接触に対して「受け身」ではなく、自分のタイミング・相手・状況を選んで接触するという行動特性を持ちます。猫が自分の意思で接触を選ぶことで安心感を得るとされています。
このため、私たちが猫に無理に触れようとするのではなく、猫が自ら近づいてくるのを待つ姿勢が信頼関係の構築において非常に重要だと考えられています。
② ゆっくりまばたきで「敵意なし」のサインを送る
猫は視線に非常に敏感です。じっと見つめられることは、猫にとって威嚇や緊張のサインと受け取られることがあります。
そのため、猫と目が合ったときは、ゆっくりとまばたき(スロー・ブリンク)をすることで、「敵意はないよ」「安心していいよ」という非言語的なメッセージを伝えることができます。
これは猫同士でも使われるコミュニケーション手段であり、私たち人間がが猫語を使う方法のひとつとして、行動学的にも有効とされています。
猫がまばたきを返してくれたら、それは信頼の証。無言の会話が成立した瞬間です。
③ 静かな生活音を心がける
猫の聴覚は人間の約5倍以上の感度を持ち、特に高周波音に敏感です。
そのため、日常の生活音、足音、ドアの開閉、テレビの音量、スマホの通知音などが猫にとってはストレス源になることがあります。
猫と仲良くなるためには、静かで予測可能な環境を整えることが重要なことのひとつ。
たとえば、猫がいる部屋では静かに歩く、物をそっと置く、急な大声を避けるなど、猫の感覚に寄り添った配慮が信頼構築につながります。
④ 猫の嗅覚に配慮する
猫の嗅覚は非常に鋭く、人間の数十倍の感度を持っています。
そのため、飼い主が使う香水、柔軟剤などが猫にとって不快になることがあります。特に柑橘系やミント系の香りは、猫が嫌う傾向があります。
猫と仲良くなるには、猫が安心できる匂い環境を整えることが大切です。
猫が好む匂い(自分の匂い、飼い主の自然な体臭など)を残しておくことで、空間に安心感が生まれ、猫がリラックスしやすくなります。
⑤ 触れる場所とタイミングを見極める
猫は触られることに対して非常に繊細です。
一般的に、猫が撫でられて心地よいと感じるのは、自分で毛づくろいしにくい部位です。たとえば、
・頭のてっぺん
・耳の後ろ
・顎の下
・首まわり
・背中の中ほど
逆に、お腹・足先・尻尾の付け根などは、急に触られると驚いたり、嫌がったりする場合も。
猫がリラックスしているときに、短時間・優しいタッチで撫でることが信頼を深めるコツです。
また、猫がしっぽをバタバタ激しく振っていたり、耳を後ろに倒していたりする場合は、不快のサインかもしれません。
猫のボディランゲージを読み取る力が、仲良くなるための大きな武器になります。
⑥ 遊びを通じて信頼を築く
遊びを通じて信頼を築く
猫は狩猟本能を持つ動物です。
その本能を満たす遊び、猫じゃらし、羽根のおもちゃ、トンネル、ボールなどを通じて、猫が「楽しい」と感じる時間を共有することが信頼構築につながります。
遊びは単なる運動ではなく、社会的な交流の場でもあります。
特に、猫が自分から遊びに誘ってきたときは、積極的に応じることで「この人は楽しい存在だ」と認識されるようになります。
また、遊びの終わりには、猫が「獲物を捕まえた」感覚を得られるように、おもちゃを捕まえさせてあげることも重要です。
これは猫の達成感につながり、ストレスの軽減にも効果があります。
(※おもちゃを捕まえてもらった後は、誤飲などしないように注意して見守った後、おもちゃはしっかり保管してください。)
⑦ 決まったルーティンで「安心できる世界」をつくる
猫との遊びを通じてポジティブな関係が築けたら、次に大切なのはその関係を安定して維持することです。
その鍵となるのが、「ルーティン(決まった生活の流れ)」です。
猫は本来、変化を嫌う動物です。野生では、毎日同じルートで狩りをし、同じ時間に休むことで身を守ってきました。
この習性は家庭内でも変わらず、猫は「いつ・どこで・何が起こるか」が予測できることで、安心感と信頼感を得るのです。
ちょっと深掘り:猫にとっての「ルーティン」の意味とは?
猫は予測可能な環境を好む動物です。
野生では、縄張りの中で決まったルートを歩き、決まった時間に狩りをすることで安全を確保してきました。
この習性は家庭内でも変わらず、猫は「いつ・どこで・何が起こるか」がわかることで、安心感と安全感を得るのです。
■ルーティンが猫の脳に与える影響
猫の脳は、予測と報酬の関係を非常に敏感に処理します。
たとえば、毎日同じ時間にごはんをもらえると、猫の脳内では「報酬予測」が働き、ドーパミンが分泌されて快感や安心感を得ることがわかっています。
逆に、予測が外れる(急にごはんの時間が変わる、環境が騒がしくなるなど)と、ストレスホルモン(コルチゾール)が上昇し、警戒モードに入ってしまいます。
■具体的なルーティンの例
以下のような日常のルーティンが、猫にとっての「安心の柱」になります:
・食事の時間を毎日同じにする(朝・夕など)
・トイレ掃除のタイミングを一定にする
・遊びの時間を習慣化する(夜寝る前など)
・家族の帰宅・外出のパターンを安定させる
・寝る場所やお気に入りのスペースを固定する
これらを守ることで、猫は「この家は安全」「この人は信頼できる」と感じるようになります。
■ルーティンが崩れたときの猫の反応
猫は環境の変化に敏感です。ルーティンが崩れたことをストレスに感じると、以下のような行動が見られることがあります。
・隠れるようになる
・食欲が落ちる
・トイレの失敗が増える
・鳴き声が増える
・家族との距離を取る
これらはすべて、不安やストレスのサインです。
特に引っ越しや家族構成の変化、旅行などのイベント時には、猫のルーティンをできるだけ維持する工夫が必要です。
猫との信頼関係も、日々の繰り返しの中で築かれるものです。
そのなかで、ルーティンは、猫にとって「この人は予測できる」「この環境は安全だ」と感じさせる、心理的な安定剤のような役割を果たすと考えられています。
猫ともっと仲良くなるために、まずは毎日の生活の中に日常のルーティンを作り、それを守ることから始めてみるのもひとつ。
※でも、同じだけでは退屈になることも
一方で、猫は好奇心が強く、環境が単調すぎると退屈を感じてしまうこともあります。退屈はストレスにつながり、過剰なグルーミングや攻撃的な行動などの問題が現れることも。特に室内で暮らしている猫は外の刺激が少ないため、日々の暮らしにちょっとした変化や遊びを取り入れることが大切です。
例えば、食事やトイレの時間・場所は固定する(安心感)でルーティンを守りながら、おもちゃを日替わりで変える(刺激)窓辺にキャットタワーを置いて外を眺められるようにする(好奇心)など。
このような「安定」と「刺激」のバランスの重要性は、動物行動学の分野でも指摘されています。たとえば、行動生態学的研究では、動物の行動は単なる反復ではなく、環境との相互作用の中で柔軟に適応されるものであり、「予測可能性」と「変化への対応力」の両立が重要であるとされています 。
「安心できるルーティーン」と「ほどよい刺激」のバランスを意識することで、猫との暮らしはより豊かで穏やかなものになると考えられています。
猫と仲良くなる「1週間チャレンジ」|行動学に基づく実践プログラム
猫と仲良くなる「1週間チャレンジ」|行動学に基づく実践プログラム
猫との信頼関係は、一度に築けるものではなく、日々の積み重ねによって育まれるものです。
ここでは、猫の行動学や習性を踏まえた「1週間チャレンジ*1」を提案します。
*1:このチャレンジは、猫との信頼関係を築くきっかけとして提案するものです。1週間チャレンジとしていますが、猫の性格や環境によって進み方はさまざまなので、猫のペースに寄り添うことを一番としながら取り組んでいただければ、と思います。
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曜日 |
チャレンジ内容 |
行動学的な目的 |
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月曜 |
猫の様子を観察し、野生モードとペットモードを記録する |
状態の把握と接触タイミングの最適化 |
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火曜 |
ゆっくりまばたきで信頼のサインを送る(1日3回) |
非言語コミュニケーションの確立 |
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水曜 |
静かな生活音を意識して過ごす(足音・声・物音) |
聴覚ストレスの軽減と安心感の向上 |
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木曜 |
猫の好きな匂い・嫌いな匂いを確認し、環境を整える |
嗅覚による空間の快適性の向上 |
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金曜 |
猫じゃらしで5分間遊び、反応を記録する |
狩猟本能の満足とポジティブな交流 |
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土曜 |
決まった時間に食事・トイレ掃除・声かけを実施 |
ルーティンによる予測と安心感の形成 |
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日曜 |
1週間の変化を振り返り、猫との距離感を確認する |
学習効果の確認と次のステップの計画 |
チャレンジのポイント
・観察力を高める:例えば、猫の行動や表情、鳴き方、しっぽの動きなどを記録することで、猫が何を感じているのか、自然とわかる瞬間が増えるでしょう。
・一貫性を持つ:毎日同じ時間に同じ行動をすることで、猫は「この人は予測できる存在」と認識し、安心感を持ちます。
・ポジティブな関連付け:遊びやおやつなどの「楽しいこと」を私たちと結びつけることで、猫は自発的に近づいてくれるようになります。
・無理をしない:コミュニケーションとして猫が嫌がることは絶対にしない*2。信頼は「猫の意思を尊重すること」から生まれます。
*2:猫の意思を尊重することは信頼関係の基本ですが、健康を守るために必要なケア(投薬や通院、診察など)は避けられない場面もあります。そんな時は、猫にできるだけストレスを与えない方法を選び、終わった後には安心できる時間をつくってあげましょう。信頼は、やさしさと責任の両方から育まれます。
まとめ|猫との信頼関係は「理解・観察・一貫性」で築く
猫と仲良くなるには、撫でたり話しかけたりすることに加え、猫の行動学・感覚・習性を理解し、猫の立場に立った接し方をすることでより絆を深めることができるでしょう。
今回紹介した7つのステップと1週間チャレンジは、猫との絆を深めるための科学的かつ実践的なアプローチです。
猫のペースに合わせて、少しずつ信頼を育てていきましょう。
猫との信頼関係は、時間と心の積み重ねの中で育まれます。小さな変化を見逃さず、猫の気持ちに寄り添うことで、少しずつ距離が縮まっていくでしょう。
そしてその瞬間は、猫が私たちを「安心できる存在」として選んでくれた証。それは、何にも代えがたい喜びです。
私たちと猫の関係が、もっともっと近づきますように。

