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2025.09.04
猫の腎臓病(腎不全)とは?原因から予防・治療法まで解説[#獣医師監修]
腎臓は尿を作るだけでなく、血圧や水分・ミネラルの調整、ホルモン分泌など多くの役割を担う重要な器官です。猫にも左右に1個ずつ、計2つの腎臓があり、これらが正常に働かなくなると「腎臓病(腎不全)」と呼ばれる状態になります。腎臓病はどんな猫にも起こり得る病気であり、特に高齢猫では発症率が高く、命に関わることもある深刻な疾患です。
今回は、猫の腎臓病について、原因・症状・予防法・治療法を獣医師監修の情報をもとに詳しく解説します。


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【獣医師】菱沼 篤子
獣医学部を卒業後、動物病院での臨床・栄養指導を経験した後に公的機関で獣医師として勤務。現在はtamaのアドバイザー、商品開発などに携わる。中型犬、小型犬と一緒に暮らしていますが、猫のことも大好きです
猫の腎臓病(腎不全)とは?
猫の腎臓病(腎不全)とは、猫の体内にある腎臓が何らかの原因によって、正常に機能しなくなる病気を指します。
特定の猫だけがかかってしまうというわけではなく、すべての猫がかかってしまう可能性があります。
・慢性腎不全と急性腎不全の違い
猫の腎臓病には、長い年月をかけてゆっくりと腎機能が低下する慢性腎不全と、急に悪化する急性腎不全があります。
慢性腎不全はゆっくりと症状が現れることから気付かないこともあり、病気と長く付き合わなければなりません。高齢の猫がかかりやすく、明確な発症原因は現在も研究が進められていますが、ネコ科の動物だけ、特定の物質の働きが異なることや、水分摂取量の少なさ、ウイルスの影響などがあげられます。
急性腎臓病は、結石などが尿道を塞いでしまったり、脱水や循環器系などの異常により腎臓へ流れる血液量が低下したり、中毒などで腎臓の組織がダメージを受けたりすることで発症します。特に、ユリ科の植物をかじったり花粉を口に含んだりすることで発症する、ユリ中毒には注意が必要です。
急性腎不全は早期の診断と治療が回復に大きく関係します。
そのため、猫が元気がない、突然の嘔吐が続く、オシッコが出ていない、など、異常を感じたら病院の受診も視野に入れてください。
猫の腎臓病(腎不全)の原因とリスク要因
こちらでは、猫の腎臓病の原因とリスク要因をご紹介します。
・年齢と腎臓機能の関係
猫は年齢とともに腎機能が低下することで腎不全の発症につながる場合も。
特に多いのが慢性腎臓病であり、キャットフードや水分補給に気を付けていても発症してしまう可能性があります。
・生活環境や食事の影響
先述したユリ中毒が急性の腎障害を引き起こすため、自宅にユリ科の植物を飾らないなどが中毒による急性腎不全の対策となります。
また、ご家庭に飾られることの多い観葉植物の中にも、猫にとって有害なものがありますので注意が必要です。
ほかにも猫にとって毒となる食材(ブドウやレーズンは少量でも腎機能障害の原因となります。)も徹底して避けましょう。
引っ越しなどによって生活環境が変わった際、ストレスにより水分や食事を摂取しなくなることが腎臓に負担になる可能性があるため、猫が安らげる環境を用意しましょう。
・遺伝的要因
一部の猫は、遺伝的要因により腎臓病を発症する可能性が高いとも言われております。
多発性嚢胞腎(たはつせいのうほうじん)も遺伝性疾患の代表的なものであり、猫によって個体差が存在します。
猫はもともと乾燥地帯で暮らしていた動物で、水分摂取量が少なくても生きられる構造を持っていますが、それが腎臓への負担につながることもあります。
猫の腎臓病(腎不全)の症状と早期発見のポイント
猫が腎臓病を発症したときに見られる症状と、早期発見のポイントについて解説します。
・主な症状
腎臓病が進行すると、尿毒症や脱水、貧血、高血圧といったさまざまな症状を発症します。腎臓の機能が低下することにより老廃物を体外に排出できなくなるため、体内に毒素がたまってしまうのです。
また、水分やミネラルを調整できなくなるため、必要な水分が尿として大量に流れてしまうこともあります。
腎臓のホルモン調整機能が低下すると、赤血球が不足し、貧血や高血圧といった症状を発症します。
健康診断と定期チェックの重要性
これらの症状は、腎臓の機能がかなり落ちた場合に起こる症状です。
初期の変化は日々、一緒に暮らしていてもなかなか気が付かないものが大半です。
血液や尿の状態などは私たち家族では判断がむずかしく、獣医師など専門家に相談することではじめて気付けます。
腎臓病を発見するためには血液検査や尿検査などを行う必要があるため、定期的に健康診断や診察を受けるようにしましょう。
特に、シニア猫はさまざまな機能が低下しているため、半年に一度を目安に健康診断を受け、異変を早期発見することが重要です。
猫の腎臓病(腎不全)の予防(健康維持)方法
猫の腎臓の健康維持のため、下記を実行しましょう。
・適切な食事管理
過剰な食事は腎臓をはじめとしたさまざまな器官に負担をかけるため、適切な食事管理を心がけましょう。
たとえば、1日の食事量を猫の体重や年齢に応じた適切な量に調整し、過剰にならないよう注意することが大切です。高タンパク・高リンの食事は腎臓に負担をかけるケースもあるため、年齢や体重に応じたバランスの良い食事を心がけましょう。
また、常に新鮮な水を与えることで、腎臓の負担を軽減できます。
獣医師から指示があった場合は指定のあった成分などを制限するなど、猫の健康を優先した食事が重要です。
・水分摂取の工夫
猫はほかの動物と比べると積極的には水分を摂取しない傾向にあるため、より猫が好む新鮮な状態の水を準備するなどしましょう。
水をこまめに入れ替えたり、猫が水を飲みやすい環境に整えたりすることで、たくさん飲んでくれる可能性が上がります。また、一般的にフードボウルを置く場所と、ウォーターボウルの置く場所は別々がいいと考えられています。
・ストレス軽減
猫は引っ越しなどをはじめとした生活環境の変化に敏感で、ストレスを感じてしまうことがあります。
ストレスを感じてしまうと食事量や水分摂取量が減少するため、ストレスを感じない・軽減できるような環境を整えましょう。
猫の腎臓病(腎不全)の治療費・治療法とケア方法
猫が腎臓病だと診断された場合、すでにステージが進行している場合も。場合によっては数泊の入院を求められる場合があり、自宅以外で過ごすことが猫にとってさらに負担になる場合も。早期に発見するほど、猫への負担も費用も抑えられる傾向にあります。
不安になるような症状が見られた場合は獣医師に診療してもらい、最適な治療を受けましょう。
特に重要なのが「療法食」の導入です。
猫の腎臓病用療法食とは?
猫の腎臓病治療において、療法食の導入は進行を抑えるだけでなく、寿命の延長にもつながる重要なケア手段です。
臨床研究により、通常食を与えた猫の生存期間中央値が264日だったのに対し、腎臓病用療法食を与えた猫では480日と、約1.8倍の延命効果が確認されています。
また、オランダのユトレヒト大学の研究では、通常食での中央値は264日だったのに対し、療法食を与えた猫の生存期間中央値は633日と、約2.4倍の差が見られたと報告されています。
この延命効果は、以下のような栄養成分が調整された食事によって実現されています。
・低リン・低タンパク質:腎臓の負担を軽減し、老廃物の蓄積を抑制
・オメガ3脂肪酸、抗酸化物質:炎症の抑制と細胞保護
など。
腎臓ケア用の療法食は、これまでの臨床研究や栄養学的知見を参考に開発されており、腎臓病の進行を抑えることを目的とした栄養設計がなされ、猫の健康維持や延命に寄与する可能性があると考えられています。
IRIS(国際獣医腎臓病研究グループ)のガイドラインでも、ステージ2以降の猫には療法食の導入が推奨されています。
ただし、療法食は腎臓の健康に特別に配慮した設計となっているため、ミネラルなどの成分が総合栄養食の基準を外れていることが多いので、健康な猫に長期間、主食として与えると逆に健康を損なう可能性があります。そのため、導入にあたっては獣医師の診断と指導を受けることが重要です。
■療法食導入時の注意点
急な切り替えは避け、通常のフードに少しずつ混ぜて4〜8週間かけて移行するのが理想です。
食欲が落ちている場合は、フードの温度や形状を工夫したり、ウェットタイプや、好みの形状で与えることのできるパウダータイプを選ぶなどの対策が有効です。
また、サプリメントなども上手に使いながら、ケアすることも可能です。
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おわりに
猫の腎臓病(腎不全)とは、猫の体内にある腎臓が何らかの原因によって、正常に機能しなくなる病気です。
慢性腎臓病と急性腎臓病の2種類があり、原因はさまざまですが治療の際には通院が必要となる場合もあり、猫にとって負担になることも考えられます。
腎臓病を予防するためには、バランスの取れた食事や適切な水分補給、日々のストレスを上手にコントロールすることが大切です。
ただし、何よりも重要なのは早期発見です。
定期的な健康チェックを習慣化し、体のサインを見逃さないようにしましょう。
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今回は、猫の腎臓病について解説しました。
猫の腎臓病は、加齢や体質、環境要因などが複雑に絡み合って発症する病気であり、完治が難しいこともあります。
しかし、早期発見と適切なケアによって、猫が快適に過ごせる時間をしっかりと守ることができます。
・定期的な健康診断
・バランスの取れた食事と水分補給
・ストレスの少ない生活環境
これらを意識することで、腎臓の負担を減らし、猫の健やかな毎日をサポートすることが可能です。
猫と一緒に、より楽しく、安心した時間を過ごせるよう、tamaのコラムをお役立ていただけるとうれしいです。

